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ため息2話

「えっと、新作の服を着て貰おうかと」 「ああ、」 豊川はそんな事かと安心したように返事をした。 「えっ?何だと思ったんですか?」 佐久間の問い掛けに豊川は笑って誤魔化す。 つい、イヤらしい想像をしてしまったのだ。 頭を切り替えないとダメだな。なんて豊川は思った。 「とりあえずは朝飯が先だ」 豊川はyoshiの前に袋を置く。 「嘉樹君も朝ご飯抜きだったの?」 「えっ、あっ…食べてないけど…」 yoshiはチラリと豊川を見る。  袋の中には1人分のサンドイッチ。 あれ?俺の分?  豊川が買いに行ったのはどうやらyoshiの朝ご飯だったようだ。  「社長は?食べないの?」 「朝飯は普段食べないんだよ。」 佐久間が珍しいと言っていたけど、この前は食べてたのになあ。なんて思いながらサンドイッチを見つめる。  わざわざ、買いに行ってくれたんだ。  なんて、嬉しくなる。  「育ち盛りはちゃんと食べないとな」 豊川はyoshiの頭を軽く叩くと、佐久間に手招きして部屋を出た。  「社長、嘉樹君には甘いですね。」 佐久間はクスクスと笑う。 「何が?」 「朝飯をわざわざ買いに行ったんでしょ?」 「ああ、仕方ないだろ?立てないし、飯食ってないんだから」 「なんか、いいですね」 「何が?」 「社長、気付いてないでしょ?嘉樹君と居る時、凄く楽しそうですよ。表情が柔らかい」 えっ? 豊川は今すぐ鏡を見たくなった。  「そんな顔してるか?」 なるべく冷静そうに聞いてみる。 「良いことだと思いますよ。社長、いつも険しい顔してましたから」 佐久間にそう言われ、豊川は苦笑いをした。 ******** 「ねえ?」 玄関で靴を履く光一に拓也が珍しく声をかけて来た。 「どうした?」 振り向き、返事をする。 「あのさ、高校入ったら一人暮らしして良い?」 「は?」 正直、驚いた。 「それがダメなら寮でもいいし」 「いきなり、どうした?」 「別に?親に干渉されたくないなーって」 まだ干渉されている年齢。 確かに光一も高校生の時に寮に入っていた。 「ちゃんとした理由なら、いいぞ」 どうせ、理由なんて教えてくれないだろうと、光一も知っている。  「アンタの奥さんがアンタの居ない間に男連れ込むからだよ。智也はまだ理解してないけどね」 光一は何も返せずに黙っていた。 そして、  「そうか…寮なら良い」 と返事をした。 「サンキュー」 拓也はクルリと背を向けその場から立ち去ろうとしたが、足を止めた。 「ねえ…もう、離婚したら?一緒に居る意味あんの?」 後ろ向きのまま言うと、拓也は部屋へと行ってしまった。 一緒に居る意味? なんだろう? よく分からない。  光一はドアを開け、外へ出た。 子供に忠告された。 しかも、麻衣子が男を連れ込んでいたなんて! 浮気は知ってたけれど、子供が居る部屋に… 車に乗り込み、ハンドルを強く握った。 もう…興味ない振りは止めないとダメなのだろうか? 子供が苦手なヤツが子供を作るからダメなんだと、豊川に言われたのを思い出した。 そうだな、家族の愛情を知らないのだから家族を作るのが間違っていたんだ。

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