89 / 275
ため息 5話
「もう、コウちゃん、真面目に話し合ってるのを邪魔しちゃダメだよ」
マコトはドアを叩く光一の手を掴む。
「それにコウちゃんが中入ったら嘉樹君ムキになってモデルやらないって言うかもよ」
その言葉に光一は不満そうにドアを睨む。
yoshiは未だに光一には反抗的。
モデルの仕事をきっかけにして、芸能界に入ってくれるかも知れない。
「あ~、ちくしょう」
光一は叫ぶ。
「全くお前はうるさ過ぎだ!」
ドアが少し開き、豊川が眉間にシワを寄せて光一を見ていた。
「お前!中で何やってたんだよ」
「yoshiがコーヒーをこぼしてね、拭いてた」
確かに微かにコーヒーの香り。
「えっ?嘉樹は?」
「シャワー浴びさせてるよ、着ていた服ごとね。で、マコトにお願いがあるんだが」
光一の横に居るマコトを見る。
「なに?」
「yoshiの服を買って来てくれないか?」
と豊川はクレジットカードを渡す。
「いいよ。どんな感じが良い?」
「マコトのセンスに任せる、マコトはセンス良いからな」
その言葉に反応したのはマコトじゃなく光一。
「俺だってセンスいいぞ!」
ムッとしている。
「へえ~」
バカにしたような豊川の態度に、
「よーし、マコト!一緒に行こう!俺が選ぶ!」
と光一は行く気満々に言う。
「え?コウちゃん面倒くさい」
嫌そうなマコトを引っ張るように光一は事務所を出て行った。
********
社長室には徹夜用の仮眠室や、シャワー室まである。
yoshiはヘトヘトになりながらシャワーを浴びていた。
「洗うのを手伝うぞ」
と豊川がシャワー室のドアを開けた。
「やだ、これ以上襲われたらマジで立てない」
「立てないなら抱っこしてやるぞ」
豊川は構わず服を脱ぎ捨てシャワー室へと入りドアを閉めた。
「すげえハラハラした」
豊川に身体を洗ってもらいながらyoshiは言う。
「ハラハラした方が興奮しただろ?」
「うん…まあ。ドキドキとハラハラでめっちゃイッた」
素直に答えるyoshi。
コトを済ませた後に缶コーヒーをバラまき生臭さを消した。
中に入られたらバレたかもしれないが上手く誤魔化せた。
*******
「これはどうだマコト!」
光一は派手な柄物シャツを広げてマコトに見せる。
「却下!」
マコトはチラッとだけ見てすぐに却下した。
「おい、何着却下したら気が済むんだ!」
光一はムッとしながら乱暴に戻す。
「コウちゃん、本当にセンスないよね。二十歳の男の子だよ?そんなヤクザ物の映画で下っ端が着ているようなシャツを嘉樹君が着ると思う?」
マコトに説教される光一。
「嘉樹君のイメージに合って、ああ、これ来たら似合うんじゃないかって思って選ばないと、そんな無差別に選んじゃダメ!」
「ち、」
光一はふてくされて店内を見回す。
嘉樹のイメージに合って…
着たら似合うんじゃないか?って服かあ~
光一は隣の店に入ろとして誰かにぶつかりそうになった。
「リナ…」
ぶつかりそうになったのはリナだった。
「あれ?珍しいね?何してるの?」
「リナこそ…」
「知り合いの店が今日、オープンだったから撮影の合間に来たのよ、そっちは?」
「豊川に頼まれて嘉樹の服を買いに来たんだけど、選ぶ服は全部マコトに却下される」
光一はふてくされている。
「…あ、何か分かるわ!でも何でyoshiくんの服を買いに?」
光一のセンスの無さはリナも知っているようだ。
「コーヒーこぼしてさ」
「なんか可愛い理由だね」
リナはキョロキョロと周りを見て、壁にディスプレイされている服を指差す。
「困った時はね、ディスプレイされた服を見るといいわよ、結構センス良いから」
光一はディスプレイされた服を見て、
あ、嘉樹似合いそうだな。
と感じた。
マコトが言った、似合いそうだ…というのは、これかあ。と思った。
「サンキュー」
光一はリナの肩を叩き礼をいうと、店員に声をかけに行った。
「なんか楽しそう」
光一は店員と楽しそうに話している。
リナはその姿に微笑むと、エレベーターを降りて行った。
「マコト!これどーだ!」
光一はディスプレイされていた服一式をマコトに見せた。
「あ~、いい感じ!yoshi君似合いそう!コウちゃんやれば出来るじゃん」
マコトは初めて光一をほめた。
ともだちにシェアしよう!