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ため息6話

「まともだな…」 服を見た豊川の第一声がそれだった。 「はっはっはっ、俺は元々センスは良いんだ!」 調子に乗ったような光一の手から服を一式取ると、豊川は社長室のドアをパタンと閉めた。 えっと…、と立ち尽くす光一は数秒後覚醒して、 「こら!何で閉め出すんだ!」 とドアを叩いた。 「コウちゃん落ち着きないなー、yoshi君着替えるからでしょ?」 「着替えるなら、何で豊川も一緒なんだよ!」 「社長室はちゃんと着替える場所あるでしょ?別にタケちゃんが着せてあげてるわけじゃないだろうし」 マコトにそう言われ、光一は渋々側にある椅子に座った。 ******** 「タケル、自分で着れるってば!」 仮眠室、バスローブを脱がされ豊川に服を着せられるyoshi。 「立てないとか着れないとか言ってバスローブ着せられて抱っこされて、ここまで来たのは誰だ?」 つい、さっき、シャワーを浴びて身体を洗って貰ったyoshiは甘えるように豊川に抱っこして、とか、自分で着れないとか可愛いワガママを言っていたのだ。 「タケルがシャワー中でもエロい事するからだろ?」 「誘うような顔するからだ」 豊川は会話しながらもyoshiに服を着せていく。 「本当はバスローブ一枚でも良かったんだけどな…エロくていい」 ニヤリと笑う豊川に、 「本当、タケルってエロい」 とyoshi。 「でも、そこも好き」 yoshiはそう言うと豊川にキスをする。 夕べから何回してるだろう? キスってこんなに気持ち良いんだ…、  yoshiは豊川にきつくしがみつき自ら彼の口内へ舌を入れる。 豊川もそれに答えるように深いキスを繰り返す。 しばらく続いたキスを終わらせたのは、 「豊川ーっ!まだかよ!」 と叫ぶ光一の声。 「…まじ、アイツうるせえ」 キスを邪魔されyoshiはふてくされる。 「さてと…続きは今夜だな」 と豊川はyoshiのオデコにキスをする。 「今夜も来ていいの?」 yoshiは嬉しそうな顔をする。 「もちろん。一緒にご飯食べよう」 「俺、作る!」 「任せた!もちろん裸エプロンな」 クスと笑う豊川。 「本当、変態」 そう言ってyoshiも笑う。  「でも、好き」 そう付け加えた。 ドアが開いてyoshiが出てくると、光一は口をあんぐりと開けたまま、ジッと見ている。 「何見てんだよ」 文句を言って睨むyoshi。 「yoshi君似合うカッコいいね」 マコトは嬉しそうに拍手する。 「ありがとうマコちゃん、これマコちゃんが選んだんだろ?」 yoshiは照れくさそうにマコトにお礼を言う。 「ううん、コウちゃん」 マコトは光一を指差す。 「えーー…光一」 yoshiは露骨に嫌そうな顔をする。 「な、なんだよ!似合ってんだからいいだろ!」 露骨に嫌そうな顔をされた光一は文句を返すが、いつもよりは大人しめ。 思った以上にyoshiに似合っていたから。 着せてみたいと思った服がこんなに似合うなんて。 「まあ、いいけど」 yoshiはそう言うと光一の前を通り過ぎる。 「今回は上出来だな」 yoshiの後ろから部屋を出てきた豊川も光一を誉めた。 「うん、似合うよね」 マコトも誉めてくれる。 な、なんか嬉しいかも! 光一はyoshiの姿を目で追う。 あ… そっか、プレゼントを贈る時ってこんな感じにすれば良かったのかな? 智也と拓也。 誕生日はいつもマコトが選んでいて、ただお金を出しただけ。 何を贈って良いか分からないからなんて、ただの言い訳。 喜ぶかな?似合うかな?身につけてくれるかな? そんな感情を出せば良かったんだ。 だって、初めてだった。 誰かの為に真剣に選んで、悩んで。 選んだモノを誉められて、着てもらうなんて。 しかも似合う! 「光一、自分の息子に見とれてどうする?」 豊川は光一の耳元で小声で言う。 「あ、うん…可愛かったんだな…って」 「何を今更?」 豊川は笑う。 こんなに可愛かったんだと改めて思う光一。 一度も愛してやれなかった子供。 プレゼントも… 愛情も…。 もっと愛せば良かった。 今更な感情。 他人の手で成長させられた息子を改めて見ると、 後悔しかなった。 はあ…、とため息が出た。

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