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愛情 4話

気持ち悪い…。 拓海に会ったら文句言ってやろう、とか、 無視してやろうとか、思ってたのに、今は気持ち悪さが先に来て、文句どころじゃない。 少し歩くと長イスがあり、そこに座らせられた。 頭がクラクラ来て、顔を伏せるように前かがみになる。 でも、何で拓海が居るんだろう? あ、そっか撮影所だもんな。なんて考えていたら首筋に冷たい何かが触れた。 驚いて顔を上げると目の前にスポーツドリンクがある。 「飲めよ」 と拓海。 「いらない」 yoshiは睨み付けるが、 「文句は後で聞いてやるから、今はつべこべ言わずに飲め!」 拓海はスポーツドリンクを無理やり渡すと、スマホで誰かに電話している。 命令口調で言われたyoshiはムッとしたままスポーツドリンクに口をつけない。 拓海は電話を切ると、いきなりyoshiの上着を脱がせ始めた。 「や、なにすんだよ」 いきなりの行動にyoshiは驚いて抵抗しようとするが力が入らない。 嫌がるyoshiの上着を脱がせた拓海は次にシャツのボタンを外そうとする。 驚くというより怖くなる。 「拓海!やだってば」 yoshiはボタンを外していく拓海の手を掴む。 ボタンは4つ目で外すのを止められた。 何で、拓海はこんな事をするのだろう? 彼も同性愛者だ。 まさかこんな場所で変な事はしないだろうが、怖くなる。 「嘉樹」 豊川の声がした。 豊川の声…それだけで不安も怖さもなくなる。 「たける…」 不安そうで、泣きそうなyoshi。 「拓海、嘉樹はどうしたんだ?」 「トイレで座り込んでたから保護した」 「具合悪いのか?」 豊川はyoshiの目の前にしゃがみ、彼の顔を覗き込む。 「頭クラクラする」 今の症状をyoshiは言葉にする。 頬に触れると熱い。 そのまま額に手を当てる。 熱? 彼の額も熱い。 今朝は熱は無かったはず。 「熱中症だよ、ソイツ」 拓海はyoshiが飲もうとしないスポーツドリンクを彼の手から奪うと豊川に渡す。 「俺からじゃ飲まないみたいだから社長飲ませなよ」 「熱中症?」 そう言われたらyoshiの症状はそうかも知れない。 「コイツの格好見りゃ分かるけど、冬物の服の撮影やってんだろ?熱いライトの中、分厚い冬服着て、暑いスタジオの中に何時間も居りゃ熱中症になるよ」 「あっ…」 豊川はしまった…と落ち込む。 そうだ…yoshiは水分補給をあまりしていなかった。 こちら側の配慮が欠けて居た。 豊川はキャップを開け、 「嘉樹、ごめんな。気がついてやれなかった」 とyoshiの手にスポーツドリンクを握らせる。 「はい、これも。首の後ろ冷やすとちょっとは違うから」 拓海はトイレへと戻り、ハンカチを濡らしてきたようで、豊川に渡す。 「ありがとう拓海」 「どういたしまして、一応、コイツにはこの前の詫びがあるし、HIROTOの借りもあるし」 と拓海は笑った。 HIROTOは拓海と同じ事務所の後輩でドタキャンしそこねた騒動を知っていたようだ。 豊川はyoshiの体を冷やすようにハンカチをあてる。 豊川が側に居て安心したのかyoshiも素直にスポーツドリンクを飲む。 「ソイツは休ませた方がいいんじゃない?」 「そうだな。連れて帰るよ」 「芸能界にやっぱ入るんだ」 「それはまだ…、佐久間に頼まれただけだし」 「まあ、とりあえず水分補給はさせる事、俺も新人の時にこんな風になって倒れた事あるからさ」 拓海はそう言うと豊川に軽く会釈してその場から立ち去った。 拓海の言う通りだ。 もう少し遅かったら? 拓海が居なかったら? ヤバかったかも知れない。 「少し休んだら帰ろう」 豊川はyoshiの頭を撫でる。 ******** 「サク、撮影の続きは日を改めてで良いか?」 豊川は電話の向こうの佐久間にそう言った。 「えっ?社長、今どこに?」 慌てたような佐久間の声。 何か不手際があったのかと彼は焦ったのだ。 「車。嘉樹が熱中症で具合悪くなったんだ。今から病院に連れて行くから、撮影は今日は中止にしてくれ」  「えっ?嘉樹君大丈夫なんですか?」 息を飲むような佐久間の驚く声。 「今はだいぶ落ち着いたよ。後でまた連絡入れるから」 豊川はそう言って電話を切った。 冷房を入れて冷やした車内の後部座席に横になっているyoshiの様子を伺うように運転席から後ろを見る。

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