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愛情 5話
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「ごめん、今日の撮影はここまで」
佐久間はスタッフ達に声をかける。
「どうしたん?」
灯が声をかけてきた。
「嘉樹君が熱中症で倒れたらしい。今、社長が病院に連れて行くって電話があった」
「えっ?!嘉樹は大丈夫なのか!」
佐久間の説明に驚き慌てたように聞いて来たのは光一。
言われてみたら、さっき豊川が誰からか電話を貰い血相を変えて現場から出て行った。
あれはyoshiの事だったと今なら分かる。
「すみません光一さん、俺のミスです。撮るのに夢中で彼の異変に気付かなかった」
佐久間は深々と光一に頭を下げた。
「いや、それは俺だって…」
そうだ、夕べの事もあったのに、忘れていた。
「サクの責任だけじゃないよ。俺だって気付いてやれなかった。たまにモデルが彼みたいに熱中症で倒れたりしたのを見ていたのに、気が回らなかった」
灯もそうフォローした。
「豊川が病院連れてくんだな。俺も追い掛ける」
と光一は撮影所を飛び出した。
「大丈夫かな?」
撮影所を出て行った光一の後ろ姿を見ながら灯は呟く。
「大丈夫だと良いけど」
佐久間も心配そうに呟く。
「そう言えば…嘉樹君って光一さんの若い時に雰囲気似てるよね」
片付けをしながら灯が言う。
メイクをしている時に輪郭や雰囲気等、似ている箇所に気づいた。
「そりゃあ似てるよ親子だもん」
「えっ?」
佐久間の言葉に驚きの声を上げたのは、灯じゃなく、拓海だった。
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「タケル」
車を走らせた数分後、後部座席からyoshiの声。
「どうした?また気持ち悪くなったか?」
ミラーで後ろを確認しながら豊川は返事をする。
「ううん、大丈夫。ねえ、隣に座りたい」
yoshiは起き上がると座席の隙間から顔を出す。
「ダメ、寝てなさい」
「助手席倒せばいいじゃん、ダメ?」
そんな風に可愛く言われたら断る理由なんてなくなる。
豊川は車を停めやすい場所で停車させると、yoshiを助手席へと移動させた。
彼が助手席に座りシートベルトを締めると豊川はシートを倒す。
そして、ゆっくりと車を走らせる。
「大丈夫か?」
豊川の大きな手がyoshiの額に当てられる。
それだけでyoshiは嬉しくて豊川を見て微笑む。
「心配されるの嬉しい」
「ごめんな、気付いてやれなくて」
申し訳なさそうな豊川。
「ううん、タケルがもっと優しくなるから」
豊川の手から伝わるyoshiの体温の熱さはだいぶ、落ち着いている。
「でも、拓海が居て良かった」
豊川の言葉にyoshiは笑顔からムッとした顔になる。
「こら、そんな顔するんじゃない。彼が連絡してくれたから分かったんだから」
「…そうだけど」
拓海にはもう会いたくなかったのに。
けど、確かにアイツが居なかったら、なんてyoshiも考える。
嫌みや意地悪をするでもなく、すぐに熱中症だと気付き応急処置をしてくれた。
そのお陰で今は気持ち悪さも目眩もない。
「分かってるよ、後でちゃんとお礼は言う」
ふてくされながらもyoshiはそう言う。
「いい子だ」
豊川は頭を撫でる。
撫でられるの好き。タケルが褒めてくれるなら、いっか…ちゃんとお礼は言おうと思った。
「タケル、こっち何が」
あるの?と聞こうとしたら豊川のスマホが鳴った。
着信は光一から。
「またアイツ?出なくていいよ」
yoshiは露骨に嫌な顔をする。
佐久間から聞いたのだろう?きっと光一も心配している。
「もし…」
「嘉樹は大丈夫か?」
電話に出た瞬間、もしもしさえも遮る勢いの光一の声はかなり大きかった。
「今は落ち着いてるよ」
豊川はスマホを耳から少し遠ざけて話す。
近付けて聞いたらきっと鼓膜が破れるに違いない。
それくらい声が大きい。
「病院連れて行くんだろ?俺も行く」
「は?迎えには行かないぞ」
「後ろに居る」
「はい?」
豊川はミラーで後ろを確認すると、運転する光一が居た。
「お前はストーカーか…なんか怖いぞ」
豊川の正直な気持ちだった。
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