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愛情 6話

「げ、マジ?」 yoshiも気付いたようで振り返り嫌な顔をする。 「アイツ、何なんだよ、毎回つきまといやがってぇ」 ご機嫌ななめになったyoshiは座り直す。 「心配なんだよ」 豊川はご機嫌ななめな彼の頭を軽くポンポンと叩いた。 「何の心配だよ」 「嘉樹の心配。私が心配するようにね」 「タケルだけでいいよ、アイツが俺を心配する意味が分かんないし」 父親だから。 父親だから心配するよ。 そう言いたいけれど、それを言葉にしたらyoshiは否定して動揺するだろう。 「ところでどこ行ってんの?」 車が走る今の場所は事務所も豊川のマンションも近くにはない。 「病院」 病人なら普通に行く場所で、豊川も当たり前のように言葉にした。 それなのに、 「嫌!タケル、俺は病院なんていかない!タケルのマンションでいいじゃん!」 ハンドルを握る豊川の腕をいきなり掴む。 そんなに強く掴まれたわけではないので、運転に支障はなかったが、動揺したようなyoshiに驚いた。 「いきなり、どうした?」 「もう大丈夫だから、病院行かなくていい!タケル戻ってよ」 yoshiは本気で嫌がっている。 「でも一応診てもらわないと」 「やだ!病院行くならここで降りる」 走っている車のドアを開けようとするyoshiに驚き、豊川は慌てて路肩に乗り上げて車を停車させた。 ドアを開ける寸前、yoshiの手を掴んだ豊川はホッと安心するように息を吐いた。 「嘉樹、危ないだろ」 怒鳴ったわけじゃなく、普段話すトーンで言ったのに、yoshiは涙目になると、そのまま泣き出してしまった。 「え、嘉樹?」 驚く豊川の胸に顔をうずめるように泣くyoshi。 いくら声をかけても返事がなく。  どうしようかと流石の豊川も困ってしまった。 病院にいかないわけには…。 でも、今の状態じゃ…悩んでいるとクラクションが鳴り、慌てて後ろを見た。 クラクションを鳴らしたのは光一だ。 前を走っていた豊川の車が路肩に乗り上げたので光一も驚いた。 豊川はyoshiの頭を撫でると、 「とりあえずマンションに行くから」 そう言った。 ******** 拓海がトイレに行ったら彼が居た。 yoshi… 誰か座り込んでいたから声をかけた拓海。 具合悪いのかと。 振り向いた顔を見て、驚いた。何で?なんて一瞬考えたけれど、格好を見て瞬時に理解出来た。 メイクされてセットされた髪、着ていた服は佐久間氏の新作。 撮影所でそんな格好してたら、何をしているか分かる。 モデルをやってるのなら、この世界に入ったって事かな? 声をかけて振り返ったyoshiが一瞬にして表情を変えた。凄く文句言いたげ。 初対面で意地悪したのだから仕方ない。 彼は無言で立ち上がって、立ち去ろうとした時にフラついたから、咄嗟に抱き止めた。 気持ち悪い…と消えそうな声。 抱き止めた身体が熱く、首筋あたりに汗をかいていたので、自分も体験済みの熱中症だと判断した。 とりあえず水分補給と涼しい場所。 少し歩かせ、椅子に座らせて、服を脱がせ楽にしてやると、yoshiの肌を見て、夕べ会った相手がやはり友人ではない事が分かった。 見えた肌につけられた赤いマーク。 ナオは恋人がyoshiに出来たと知っていたんだ。 ああ、だからかな? 素直に誘いに乗ってくれたり、一緒に住もうと言い出したのは。 いつ、自分を見てくれる? いつ、ちゃんと愛してくれる? いつまでも待つつもりだけど、 少しずつ自分の方を見てくれていると勘違いしていた。 そうか…原因はやっぱりコイツ。 やっぱりコイツにはかなわないんだ。 初めて会った時に綺麗なヤツだと思った。 こうして間近で見ていると、綺麗で儚い。 黙っていると本当に美少年という言葉が似合う。 大きな瞳が拓海を捕らえる。 ナオが自分よりも誰よりも愛している存在。 「嘉樹」 そうこうしている内に社長が来た。 その時に「タケル」と小さく呟いて笑顔になった。 タケル?呼び捨て?と拓海は思った。 凄く良い顔をするyoshi。 まるで自分がナオと会っている時の表情。 豊川の態度も普通と違う。 二人の雰囲気はただならぬ感じがして、yoshiの相手って? と感じた。 ******** 「新崎さんの息子?」 yoshiが気になり撮影所を訪れた拓海が偶然聞いた話。 そっか…もし、考えている事が正しいなら。使えるネタにもなる。 拓海はニヤリと笑う。

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