96 / 275
愛情 6話
「げ、マジ?」
yoshiも気付いたようで振り返り嫌な顔をする。
「アイツ、何なんだよ、毎回つきまといやがってぇ」
ご機嫌ななめになったyoshiは座り直す。
「心配なんだよ」
豊川はご機嫌ななめな彼の頭を軽くポンポンと叩いた。
「何の心配だよ」
「嘉樹の心配。私が心配するようにね」
「タケルだけでいいよ、アイツが俺を心配する意味が分かんないし」
父親だから。
父親だから心配するよ。
そう言いたいけれど、それを言葉にしたらyoshiは否定して動揺するだろう。
「ところでどこ行ってんの?」
車が走る今の場所は事務所も豊川のマンションも近くにはない。
「病院」
病人なら普通に行く場所で、豊川も当たり前のように言葉にした。
それなのに、
「嫌!タケル、俺は病院なんていかない!タケルのマンションでいいじゃん!」
ハンドルを握る豊川の腕をいきなり掴む。
そんなに強く掴まれたわけではないので、運転に支障はなかったが、動揺したようなyoshiに驚いた。
「いきなり、どうした?」
「もう大丈夫だから、病院行かなくていい!タケル戻ってよ」
yoshiは本気で嫌がっている。
「でも一応診てもらわないと」
「やだ!病院行くならここで降りる」
走っている車のドアを開けようとするyoshiに驚き、豊川は慌てて路肩に乗り上げて車を停車させた。
ドアを開ける寸前、yoshiの手を掴んだ豊川はホッと安心するように息を吐いた。
「嘉樹、危ないだろ」
怒鳴ったわけじゃなく、普段話すトーンで言ったのに、yoshiは涙目になると、そのまま泣き出してしまった。
「え、嘉樹?」
驚く豊川の胸に顔をうずめるように泣くyoshi。
いくら声をかけても返事がなく。
どうしようかと流石の豊川も困ってしまった。
病院にいかないわけには…。
でも、今の状態じゃ…悩んでいるとクラクションが鳴り、慌てて後ろを見た。
クラクションを鳴らしたのは光一だ。
前を走っていた豊川の車が路肩に乗り上げたので光一も驚いた。
豊川はyoshiの頭を撫でると、
「とりあえずマンションに行くから」
そう言った。
********
拓海がトイレに行ったら彼が居た。
yoshi…
誰か座り込んでいたから声をかけた拓海。
具合悪いのかと。
振り向いた顔を見て、驚いた。何で?なんて一瞬考えたけれど、格好を見て瞬時に理解出来た。
メイクされてセットされた髪、着ていた服は佐久間氏の新作。
撮影所でそんな格好してたら、何をしているか分かる。
モデルをやってるのなら、この世界に入ったって事かな?
声をかけて振り返ったyoshiが一瞬にして表情を変えた。凄く文句言いたげ。
初対面で意地悪したのだから仕方ない。
彼は無言で立ち上がって、立ち去ろうとした時にフラついたから、咄嗟に抱き止めた。
気持ち悪い…と消えそうな声。
抱き止めた身体が熱く、首筋あたりに汗をかいていたので、自分も体験済みの熱中症だと判断した。
とりあえず水分補給と涼しい場所。
少し歩かせ、椅子に座らせて、服を脱がせ楽にしてやると、yoshiの肌を見て、夕べ会った相手がやはり友人ではない事が分かった。
見えた肌につけられた赤いマーク。
ナオは恋人がyoshiに出来たと知っていたんだ。
ああ、だからかな?
素直に誘いに乗ってくれたり、一緒に住もうと言い出したのは。
いつ、自分を見てくれる?
いつ、ちゃんと愛してくれる?
いつまでも待つつもりだけど、
少しずつ自分の方を見てくれていると勘違いしていた。
そうか…原因はやっぱりコイツ。
やっぱりコイツにはかなわないんだ。
初めて会った時に綺麗なヤツだと思った。
こうして間近で見ていると、綺麗で儚い。
黙っていると本当に美少年という言葉が似合う。
大きな瞳が拓海を捕らえる。
ナオが自分よりも誰よりも愛している存在。
「嘉樹」
そうこうしている内に社長が来た。
その時に「タケル」と小さく呟いて笑顔になった。
タケル?呼び捨て?と拓海は思った。
凄く良い顔をするyoshi。
まるで自分がナオと会っている時の表情。
豊川の態度も普通と違う。
二人の雰囲気はただならぬ感じがして、yoshiの相手って?
と感じた。
********
「新崎さんの息子?」
yoshiが気になり撮影所を訪れた拓海が偶然聞いた話。
そっか…もし、考えている事が正しいなら。使えるネタにもなる。
拓海はニヤリと笑う。
ともだちにシェアしよう!