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愛情 8話
「なんだそれ?」
ふてくされる光一を少し驚いたように見る豊川。
「なんだよって何だよ!俺だってヤキモチくらい妬くよ」
「…いや、今までそんな事無かったのになあ、って思ってさ。」
光一はフンと鼻を鳴らしそっぽを向く。
「智也君や拓也君がマコトやアキに懐いてもヤキモチは妬かなかっただろ?嘉樹も小さい時にマコトに懐いててもヤキモチは妬かなかった…なんで今更?」
「うるせえ!自分はyoshiに懐かれてるからってさ!だいたい、何でお前に懐くんだよ、お前なんてさ冷たいし、真面目過ぎて面白くないし、怖いし!懐く要素がどこにもない!」
光一は息つく暇さえも忘れて一気に喋った。
「お前…そんな目で見てたのか?」
豊川は呆れたように息をつく。
「なのにさ、お前ばっかモテてた!昔っからそう!麗子ちゃんだって、真樹ちゃんだって、俺が告白したら必ず、私、タケルくんが好きなの!なんて言われてたんだぞ!」
光一の言葉に豊川は深いため息をつく。
まったく…コイツは、昔の事を未だに…。
「何ため息ついてんだよ!」
豊川のため息にイラッと来たのか光一の声はつい、大きくなる。
「お前、声でか過ぎ、嘉樹が起きる」
その注意に光一は慌てて口を塞ぐ。
「嘉樹が懐くのが不満か…」
豊川は呟く。
懐くだけじゃなく、既に一線を越えている。
「不満だらけだ、いつになったら俺はお前に勝てるんだよ」
「…ずっと、負けてると思ってたけどな」
豊川はそう言うと立ち上がる。
「なんだよ、ソレ!優越感か!」
光一は更にイラつくように言う。
優越感とは違う…ずっと負けてると思ってたのは自分。
昔っから光一が羨ましかった。
お互いに、そんな風に思っていたのも今なら笑えるかも知れない。
「ナオに嘉樹を泊めると連絡入れるよ」
「えっ?泊めるのか?」
「寝てるのを起こすの可哀相だろ?」
「ああ、そっか、」
光一は納得すると、すぐに、
「俺も泊まる」
と言った。
「は?」
「嘉樹が心配だから泊まる」
「お前が寝る場所も、お前に貸すパジャマも着替えもないぞ」
豊川は迷惑そうに言う。
「うるせえ!下着とかはコンビニで調達してやる!」
光一は鼻息も荒く答えた。
「コンビニで下着買ってたら、また週刊誌に朝帰りだの、いろいろ書かれるぞ」
豊川は冷静に突っ込みを入れた。
「今回はやましくないから構わない」
「毎回、やましいと思ってはいたんだな」
更に冷静に突っ込まれ光一は悔しそうにジタバタしている。
怒鳴り返したらyoshiが起きる!多分、そう思っているのだろう。
なんだか、何時もの光一ではないので可笑しな気分になる。
豊川はそんな光一をほったらかしてナオに電話をしに行く。
*********
3コール目でナオに繋がった。
「豊川さん、…yoshiと一緒ですか?」
いきなりの質問。
少し、ドキリと来た。
光一に言えないな。
やましい事があるからドキリと来るのかな?
なんて考えながら、
「一緒だよ。私のマンションに居る」
と答えた。
「そうですか、良かった」
ホッとしたような彼の声。
「いや、あまり良くない…私達のせいなんだが、軽い熱中症になってね。」
責められるかな?と覚悟をして熱中症の事を伝える。
「知ってます。拓海に聞いたので」
冷静に返って来た言葉。
ああ、そうか…拓海から彼に情報が行くよな。
側に居たのは拓海なのだから。
「病院に連れて行けました?」
変な聞き方をするナオ。
普通なら行きました?なのに。
「いや、…病院には行っていないんだよ、凄く嫌がって、途中で泣かれて」
「あ、やっぱり嫌がりましたか」
と返事が返って来て、あんなに嫌がるのは理由がやはりあるのだと確信した。
「子供みたいに泣くから驚いて…」
「僕も毎回苦労しますよ、yoshiは喘息持ってるし、すぐに熱をだすし、その度に子供をあやすみたいに騙し騙し連れて行くんですよ」
「そんなに…嫌なのか?」
「…小さい時に長く入院していた事があって、入院の間に何人も仲良くなった友達を亡くしてて…」
…あっ、それでか…。
それは嫌かも知れない。
豊川は小さい子供みたいに泣く彼を思い出した。
「それと…」
ナオは言葉をためると、
「病院は兄が亡くなった場所だから…義姉も。病院で両親が亡くなった事を知ったので、それを思い出すから怖いんだと思います」
そう言った。
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