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君の手 5話
良い匂いがする。
味噌汁の匂い…
ご飯が炊ける匂い…。
卵焼きや魚が焼ける匂い。
婆ちゃん?
それとも豊川んちの母ちゃん?
凄く懐かしい匂いに包まれて目が覚めた。
「何だ、起きてたのか?」
光一を見下ろす豊川。
あー、そっか…豊川のマンション。
顔を洗いに洗面所へと行き、顔を洗いながら、何故に豊川のマンションへ来たのかを考え、 そして、思い出した。
「嘉樹!」
yoshiを心配してマンションまで来たのだ。
「うるせえよ、朝から」
yoshiは慌てて戻って来た光一を面倒くさそうに見ている。
見た目、元気そうな彼。
「お前、身体大丈夫なのか?」
光一はyoshiの側に行くが、起きている彼には触れる事は出来ない。
「大丈夫だけど?それよりも早く飯食えよ、時間あんま無いぞ」
飯?
そう言われてテーブルの上に並べられた朝食に気付いた。
あ…、嗅いだ匂いはこれかあ。
と光一は素直にテーブルにつく。
「これ作ったの豊川?」
「嘉樹」
豊川はyoshiを指差す。
「マジ?」
純和食が並ぶ。
プロ並くらいに良い感じに光一の目には映る。
「嫌なら食うな」
料理を黙って見つめる光一にyoshiはそう言った。
「食べる、食べるよ!頂きます」
光一は慌てて箸をつける。
一番最初に食べたのは玉子焼き。
食べた瞬間に、 懐かしい味がした。
「相変わらず好きなモノから先に食うよなお前」
豊川は光一の向かい側に座る。
その横は当たり前のようにyoshiが座る。
「なに?光一、玉子焼き好きなん?子供か!」
yoshiは嫌みを言う。
「なあ…この玉子焼き誰に教わった?」
光一はyoshiの嫌みをスルーして、真顔で聞く。
「えっ?ナオ経由で俺の母親だけど?なに?マズいとか文句なら」
「いや、美味い!」
yoshiの言葉を遮り光一は叫ぶ。
急に叫ばれyoshiはちょっとビックリしている。
「すげえ美味いよ」
光一はにっこり笑うとガツガツと玉子焼きを平らげてしまった。
そっか…美嘉に教わったのか。
直接ではないようだが、でも、懐かしい味そのまま。
道理で味が似てると思った。
光一は嬉しくてニコニコしたままご飯を食べる。
全てを完食した光一は目の前の豊川の朝食を見つめている。
「残すのか?」
「は?」
光一のいきなりな質問に豊川は一瞬何事かと思った。
でも、光一の視線の先の玉子焼きに気付いた。
「好きなモノは後から食べるんだよ」
豊川はさりげなく玉子焼きの皿を光一から遠ざける。
「ケチ」
子供みたいに拗ねる光一。
「もう、子供じゃないんだからさ!」
見かねたyoshiが自分の分を光一の前に置く。
「おっ、サンキュー嘉樹!」
光一は嬉しそうな顔で玉子焼きに箸をつけようとした途端に豊川により阻止される。
「嘉樹、ちゃんと食べなさい。コイツは甘やかさなくて良い」
そう言ってyoshiの前に皿を置く。
「食べ物の恨みが一番凄そうだから、良いよ。俺はまた自分で作るし」
とyoshiはまた皿を光一の前に置く。
「嘉樹は良い子だよなあ」
と光一はyoshiににっこりと微笑む。
「はいはい、2人とも早く食べろよ、片付かないから」
yoshiは食べた食器を片付け出す。
「お前、遠慮しろよ」
豊川に睨まれても光一はもう慣れた感じでスルーしている。
「だってさ、久しぶりの手料理」
「あっそ、私は二回目だな」
「二回?嘉樹の手料理?」
「そう、昨日も食べた」
ちょっと優越感に浸っているように豊川はニヤリと笑う。
「なんだよー豊川ばっかり!あー、もう、嘉樹!なんで豊川ばっか贔屓すんだよー!」
と子供みたいにジタバタと騒ぎ出す光一。
「うるせえーつってんだろ!」
yoshiはキッチンから叫ぶ。
「食べたんなら早く食器持って来いよ洗うから」
yoshiに怒られ光一は大人しく食器を手にキッチンへと行く。
「全くアンタは子供か!玉子焼きだけであれだけ騒げるなんて」
光一から食器を受け取りながらyoshiは文句を言う。
「だって、豊川ばっか…嘉樹の手料理食ってんだろ?ズルい」
「ズルい…って、奥さんに作って貰えよ」
yoshiは呆れたようにそう言う。
「仕方ねえじゃん、嘉樹の手料理美味いし、それに…奥さんに料理作って貰った記憶ないし」
「は?」
yoshiは驚くように声を上げた。
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