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君の手 6話
「え?そんな驚く事?」
yoshiの驚くような声に光一はキョトンとしてた。
「そりゃ驚くよ!だって光一が一家の主だろ?なんで奥さんご飯作らないの?えっ、だったら智也やお兄さんの分は?」
yoshiにとって、奥さんは料理をするのが当たり前。
それは自分の母親がちゃんと作っていたから。
「子供の分はさすがに作っているけどね」
「じゃあ毎日外食?」
「そうだな」
「そうだなって外食ばっかダメじゃん!」
ダメって言っても他人の家の事。あまり口出しは出来ないのでyoshiはそれ以上は言えない。
「でも、今日は嘉樹の手料理食べれて良かった。ありがとう、美味しかった」
光一は笑顔で礼を言う。
いつの間にか手料理まで作れるまでに成長しているyoshiに笑顔になる。
しかも、味付けは美嘉が作ってくれていたモノと変わらない。
凄く懐かしい。
懐かしいけれど、後悔と寂しさが同時に襲ってくる。
毎日、手料理を作って待っていてくれた美嘉。
あの時は当たり前だと思っていた。
感謝も感動も感じなかった。
なんて身勝手なのだろう?
手に入らなくなってようやく、その重要性に気付いた。
*******
ナオはいつの間にかyoshiよりも拓海と過ごす時間が長くなっているような気がしていた。
撮影が終わり、また拓海のマンションに戻ったのは明け方。
眠いけれど、仕事に行く準備をして、拓海が起きた時の為に料理を作って置いる。
yoshiは…もう、自分を必要としていないのかも。
そんな感情に支配されそうになる。
拓海のマンションを出た時にラインがきた。
yoshiからだった。
なんてタイミングなのだろう?
そして、嬉しい感情が生まれる。
[ナオ、連絡遅くなってごめんね。体調は大丈夫だよ。ナオは変わりない?]
そんな内容。
短い内容でも嬉しい。
まだ必要とされている?
試してみたくなる。
*******
yoshiは事務所に着くと佐久間を探し、撮影中断を謝罪した。
「こっちこそ、ごめんね。気付いてやれなくて…熱中症って最悪死んじゃう場合あるのにさ」
謝るyoshiよりも佐久間の方が元気がない。
「佐久間さんが謝る事無いんですよ。撮影中断させてしまって…本当にすみません、それよりも途中ですよね?」
「いや、ほぼ撮り終えてたんだよ。だから気にしないで」
佐久間は微笑む。
「店頭用のパンフとプレゼン用のパンフにするんだけど、出来上がったら嘉樹君にもあげるね」
「それはどうも…」
yoshiはペコリと頭を下げる。
「でね、これが好評だったら広告用のポスター、とかも撮るからね」
佐久間はニコッと笑う。
「ポスター?」
「あと、雑誌広告ね。雑誌広告はアイドルと一緒だよ」
「えっ?もう決定事項?」
yoshiは目を大きく見開いて驚いている。
「うん」
佐久間は即答する。
えーー、 まだやるのかよ。
yoshiは複雑だった。
「嘉樹君、モデル引き受けてくれてありがとうね」
佐久間はyoshiの肩に手をポンと置く。
******
モデルかあ…。
yoshiはパソコンとにらめっこをしながら考えていた。
もしかしたら安請け合いだったかも。
それに…忙しくなるとタケルと一緒に居られなくなるし。
いまさら、断るのもなあ。
あーー…。
とため息。
「何ため息ついてんだ?」
豊川の声と一緒に頬に冷たいモノがあたる。
「タケル」
顔を上げると水が入ったペットボトルが目の前に出された。
「水分補給忘れずに」
ニコッと笑う豊川。
「嫌みか」
yoshiはペットボトルを受け取り笑う。
「それから、これも」
豊川の手からyoshiの手に渡されたモノは、
「カードキー?」
カードキーだ。
「私の部屋の合い鍵だよ」
「マジ?」
yoshiの目は輝いた。
「いつでもおいで」
豊川はそう言うとyoshiの頭をクシャクシャと撫でる。
「タケル…ありがとう」
yoshiは凄く嬉しそうに笑った。
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