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束縛 4話

「嘉樹、電話したのに」 豊川が近寄って来る。 「えっ?本当?気付かなかった」 yoshiは何故か目を合わせられず、そらしたままに嘘をついた。 「嘉樹、ケーキ何食べる?」 光一はyoshiの前に箱のフタを広げて見せた。 「どれも美味そうだけど、やっぱタルトとか」 オススメしてくる光一。 「…いらない。もう退社だよね?用事あるから帰るね。お疲れ様」 yoshiは頭を下げると方向を変えて事務所を出た。 「おい、嘉樹」 光一の声が背後から聞こえて来たけれど、聞こえないフリをした。  何だろ、めっちゃモヤモヤする!  yoshiはエレベーターに乗り込み、1階を押した。 ドアが閉まる寸前、誰かの手が伸び閉まりかけたドアがまた開いた。  そこに立っていたのは豊川。  yoshiはつい、俯いてしまう。  豊川はそのまま乗り込んでyoshiの横に立つ。  「どうした?具合悪い?」 自分と目も合わせようとせず、急に元気が無くなったyoshiを心配して後を追って来た豊川。  「別に」 yoshiは相変わらず俯いたまま。  「今日、用事があるって?」 数時間前までは泊まりに来ると言っていた。  yoshiは頷くだけ。 「じゃあ、送って行くよ」 「…いい」 小さく呟くようにyoshiが言うと丁度、1階に着きドアが開いた。  降りようとするyoshiの手を豊川はぎゅっと握るとエレベーターのB2ボタンを押して、エレベーターを閉める。  振り解こうとしたら振り解けたのに、yoshiは出来ないでいた。  地下駐車場に着くまでお互い無言で、でも、豊川の手はぎゅっとyoshiの手を握りしめ離さない。 車に乗り込み、yoshiがシートベルトをつけるのを確認すると、車は動き出した。  もう…どうしたいのかyoshi自身も分からなくなっていて、ただ…今のモヤモヤな気持ちを上手く言葉に出来ない。 「さて、そろそろ機嫌が悪い理由を話してもらおうかな?」 豊川は優しい口調で促すが、  「別に機嫌悪くないし」 とyoshiは答えてしまう。  可愛くないと自分で分かっているのに、何故か素直になれない。  yoshiの手を豊川がまたぎゅっと握った。  そして豊川の方へ体を引っ張られた。  フワリと香る香水。  豊川の手はyoshiの肩へ回る。  豊川はそれ以上、何も聞いて来ない。  可愛くない態度に怒った?  それとも呆れた?  心が泣きそうなくらいにギュッと締め付けてくる。  何で、上手く言葉に出来ないのだろう?  「着いたぞ」 yoshiはその声で我に返った。  もう? 何時もより着くのが早い気がした。  時間を感じないくらい、考え込んでいたのかと思う。  「具合悪いのなら、明日休んで良いよ」 豊川はそう言うとyoshiの肩から手を離した。  離された瞬間、凄く不安になり、泣きそうになる。  それを知られたくないyoshiはシートベルトを外すと返事もせずに車から降りた。  どうしよう…凄く可愛くない態度。  自分で自分が嫌いになりそうになる。  豊川もyoshiが降り、ドアが閉まるのを確認すると車を発進させた。  タケル、きっと怒ったんだ!  自分が知ってる豊川ならもう少し深く聞いてくるのに。  可愛くない態度を取る自分に呆れたんだ。  遠ざかるエンジン音。  振り返り、道に出る。  彼の車は遥か遠く…。  バカ…。  本当にバカだよ俺。  何であんな可愛くない態度取ったんだろう?  もう、絶対に嫌われた。 yoshiは玄関前に座り込んだ。  どうしよう?  電話で謝る?  出るのはどうするかのアイデアではなく溜め息。 「嘉樹」 頭上から豊川の声。  驚いて顔を上げる。  豊川がyoshiを見下ろしていて、しかも優しい顔。 怒ってない?  そう聞きたくても聞けなくて、ただ豊川を見つめた。  「おいで」 豊川はyoshiの腕を引っ張り上げ立たせると、手を握ったまま歩き出した。 

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