110 / 275
束縛 4話
「嘉樹、電話したのに」
豊川が近寄って来る。
「えっ?本当?気付かなかった」
yoshiは何故か目を合わせられず、そらしたままに嘘をついた。
「嘉樹、ケーキ何食べる?」
光一はyoshiの前に箱のフタを広げて見せた。
「どれも美味そうだけど、やっぱタルトとか」
オススメしてくる光一。
「…いらない。もう退社だよね?用事あるから帰るね。お疲れ様」
yoshiは頭を下げると方向を変えて事務所を出た。
「おい、嘉樹」
光一の声が背後から聞こえて来たけれど、聞こえないフリをした。
何だろ、めっちゃモヤモヤする!
yoshiはエレベーターに乗り込み、1階を押した。
ドアが閉まる寸前、誰かの手が伸び閉まりかけたドアがまた開いた。
そこに立っていたのは豊川。
yoshiはつい、俯いてしまう。
豊川はそのまま乗り込んでyoshiの横に立つ。
「どうした?具合悪い?」
自分と目も合わせようとせず、急に元気が無くなったyoshiを心配して後を追って来た豊川。
「別に」
yoshiは相変わらず俯いたまま。
「今日、用事があるって?」
数時間前までは泊まりに来ると言っていた。
yoshiは頷くだけ。
「じゃあ、送って行くよ」
「…いい」
小さく呟くようにyoshiが言うと丁度、1階に着きドアが開いた。
降りようとするyoshiの手を豊川はぎゅっと握るとエレベーターのB2ボタンを押して、エレベーターを閉める。
振り解こうとしたら振り解けたのに、yoshiは出来ないでいた。
地下駐車場に着くまでお互い無言で、でも、豊川の手はぎゅっとyoshiの手を握りしめ離さない。
車に乗り込み、yoshiがシートベルトをつけるのを確認すると、車は動き出した。
もう…どうしたいのかyoshi自身も分からなくなっていて、ただ…今のモヤモヤな気持ちを上手く言葉に出来ない。
「さて、そろそろ機嫌が悪い理由を話してもらおうかな?」
豊川は優しい口調で促すが、
「別に機嫌悪くないし」
とyoshiは答えてしまう。
可愛くないと自分で分かっているのに、何故か素直になれない。
yoshiの手を豊川がまたぎゅっと握った。
そして豊川の方へ体を引っ張られた。
フワリと香る香水。
豊川の手はyoshiの肩へ回る。
豊川はそれ以上、何も聞いて来ない。
可愛くない態度に怒った?
それとも呆れた?
心が泣きそうなくらいにギュッと締め付けてくる。
何で、上手く言葉に出来ないのだろう?
「着いたぞ」
yoshiはその声で我に返った。
もう?
何時もより着くのが早い気がした。
時間を感じないくらい、考え込んでいたのかと思う。
「具合悪いのなら、明日休んで良いよ」
豊川はそう言うとyoshiの肩から手を離した。
離された瞬間、凄く不安になり、泣きそうになる。
それを知られたくないyoshiはシートベルトを外すと返事もせずに車から降りた。
どうしよう…凄く可愛くない態度。
自分で自分が嫌いになりそうになる。
豊川もyoshiが降り、ドアが閉まるのを確認すると車を発進させた。
タケル、きっと怒ったんだ!
自分が知ってる豊川ならもう少し深く聞いてくるのに。
可愛くない態度を取る自分に呆れたんだ。
遠ざかるエンジン音。
振り返り、道に出る。
彼の車は遥か遠く…。
バカ…。
本当にバカだよ俺。
何であんな可愛くない態度取ったんだろう?
もう、絶対に嫌われた。
yoshiは玄関前に座り込んだ。
どうしよう?
電話で謝る?
出るのはどうするかのアイデアではなく溜め息。
「嘉樹」
頭上から豊川の声。
驚いて顔を上げる。
豊川がyoshiを見下ろしていて、しかも優しい顔。
怒ってない?
そう聞きたくても聞けなくて、ただ豊川を見つめた。
「おいで」
豊川はyoshiの腕を引っ張り上げ立たせると、手を握ったまま歩き出した。
ともだちにシェアしよう!