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束縛 5話

まるで、あの時みたいだ。 拓海に意地悪をされ泣きそうだったあの時。 少し歩くと豊川の車があった。  車を止めて、また戻って来てくれたんだと嬉しくなる。 どうして…、どうして豊川はこんなに優しいのだろう? ふてくされたみたいな態度を取ったのに。 自分でも可愛くない態度だって分かるのに。 怒ってないのかな? 呆れてないかな? そして、少し怖くなった。 助手席に乗せられ、シートベルトを装着してくれたのは豊川。 yoshiは黙って顔も上げれずにいたから。 豊川も乗り込み、俯いたままのyoshiの頭をくしゃくしゃと撫でると、 「気分転換に少しドライブしよう」 優しい口調で言う。 その口調は少しも怒った様子なんてない。 車が動き出し、yoshiは何を話して良いか言葉を捜す。 ごめんなさい。この言葉がすぐに浮かんだ。 でも、言うタイミングが分からない。 俯くyoshiの手を豊川がぎゅっと握った。 温かい体温が伝わり泣きそうになる。 「…ごめんなさい」 握られた手が伝わる豊川の温かさが手助けをしてくれて、言葉が自然に出た。 豊川は握る手に力を入れ、 「…本当に君は良く泣く子だな」 とあの時と同じ言葉を言う。 yoshiは思わず顔を上げ豊川の方を見る。 同じタイミングで豊川もyoshiの方を見たので、目が合った。 「やっと、私を見てくれたな」 豊川はニコッと笑う。 その笑顔にyoshiは思わず、彼の肩に顔を寄せる。 すると豊川は握っていた手を離すとyoshiの肩に回した。 「モヤモヤした…」 yoshiはポツリと呟く。 「何が?」 「タケルがずっと灯さんと話してて、相談とか…そんなに親しいのかって…モヤモヤして」 自分の中にあったモヤモヤした感情。 ようやく言葉に出来たら涙がじんわりと滲んできた。 「そっか、それでずっと目も合わせないし、ご機嫌ななめだったのか」 yoshiは頷く。 「だって…嫌だった、ごめん」 「謝らなくていいよ。ヤキモチ妬いてくれて嬉しいから」 豊川はそう言うとyoshiの額に軽くキスをした。 ***** yoshiの様子がおかしいのに気付いたのは彼が事務所に戻って来た時から。 目を合わせない。 急にどうしたのだろう?と豊川は思った。 マンションに来ると言っていたのに、帰ると言い出し、豊川の顔も見ずに事務所を出たyoshi。 気にならないわけがない! 可愛い恋人があからさまに自分を避けている。 追いかけて、エレベーターの中で捕まえた。 何かあったのだろうとは分かる。 不安なのか、落ち着かないのか、 多分、yoshiは感情を自分でコントロール出来ないのだろう。 爪を噛む癖。  爪を噛む癖がある子は幼い頃の愛情不足とか聞いた事がある。  不安そうに親指の爪を噛むyoshiに気付き、手を握った。 握った瞬間にビクンと身体が動いたから、驚かせたかも知れない。 目も合わせなくなった彼が一瞬、自分を嫌いになったのではないかと不安になった。  なんせ歳が離れているし、彼の父親とは同級生だ。 いつまで若い彼が自分を好きで居てくれるか正直分からない。 でも握った手を微かに握り返してくれているから、すぐに安心した。  車に乗せても俯いたまま。  また、無意識に口元に指を持って行こうとしたのでyoshiの手をぎゅっと握った。  きっと不安にさせているのは自分。 話掛けてもただ、泣きそうな顔をして俯くだけ…。  あっという間に彼の家に着き、彼もサッサと車を降りた。  振り向かない背中は泣きそうで、 その前に車を何時までも停めていられないし、 とりあえずは車を停車出来る場所まで移動した。 戻ると玄関前に座り込むyoshiの姿が見えた。 戻って来て良かったと思ってしまったのは自分を見上げたyoshiが泣きそうだったから。 車にまた連れ込み、yoshiが目を合わせなかった理由が分かった。 ヤキモチ!  灯と二人で話していた事が嫌だったと、可愛い理由を言われた。 やばい…。 嬉しい! こんなオッサンにヤキモチを妬いてくれるなんて! 肩に寄り添うyoshiのおでこにキスをした。 本当はこのまま押し倒して抱きたい!

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