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愛しい人7話
「また豊川贔屓かよ!ちぇ、いいよ、寝るから!仮眠室借りるからな」
ふてくされた光一はそう言って仮眠室へ向かう。
yoshiは立ち上がると光一に「ちょい、待ち」と声を掛けた。
振り返る光一の前に机の上にあと1つ置いてあった紙袋を差し出す。
うん?
何?とキョトンとする光一に、
「一応言っておくけど、ついでだからな!材料が余ったから仕方なくなんだからな」
そう言って紙袋を押し付けた。
材料?
yoshiは確かにそう言った。
しかも、何だか照れくさそうな顔をして、目を合わせない。
袋の中をチラリと見ると容器があった。
もしかして?
「えっ?俺の?」
光一は驚いてしまった。
「嫌なら食うな!」
yoshiは照れくささからなのか、固まった光一の手から紙袋を取り上げようとした。
「食う!食うよ!」
光一は慌てて紙袋を両手に抱き込んだ。
「残したら二度と作らないからな!」
強気な発言に光一は頷くが顔はニヤけていた。
「じゃあ、おやすみ」
yoshiは光一を仮眠室へ押し込む。
ドアが閉められ、光一はベッド座るなり紙袋から容器を出す。
フタを開けるとまず目に飛び込んで来たのは玉子焼き。
お握りも形よく作られ、2つのあった容器の中はバランス良く考えられたおかずがギッシリだった。
余ったから…
そんな感じには見えなかった。
光一はニヤニヤしながら玉子焼きを先に食べ出した。
「やっぱ美味い」
思わず声に出した。
うん。美味い!
そして嬉しい。
まさか自分の分まで作って来るなんて…。
あ、写メしとこ!
光一は思わず弁当を写メする。
ニヤニヤしながら食べる手作り弁当は美嘉と祖母の味がして、
なんか……………、 懐かしくて、じんわりと目頭が熱くなる。
美味い。
ありがとう…。
そして、ごめんな。
こんな風に優しくして貰える資格は自分には無いかも知れないのに。
本当に良い子に育ったんだ。
「タケル、ニヤニヤして気持ち悪い」
ソファーに戻ると豊川がニヤニヤしていた。
素直じゃないyoshi。
きっと余ったなんて嘘。ちゃんと光一の分も初めから作る気だったのだろう。
「嘉樹は可愛いなあ~ってさ」
「な、何だよソレ」
yoshiは落ち着きなく目が泳いでいて、ああ、こんな姿も可愛いんだな。なんてニヤつく自分が居る。
******
身体が熱くて目を覚ました拓海は無意識にナオを捜す。
ナオを捜す為に伸ばした手をちゃんと握ってくれる温かい手の感触。
「どうした?」
心配そうに覗き込んでくるナオ。
「みず…」
熱のせいか喉が乾く。
「起き上がれるか?」
ナオに手伝って貰って起き上がる拓海。
ナオが渡してくれた水が入ったペットボトルにはストローが入れてあった。
小さな優しさが嬉しくなる。
甘えるようにぎゅっとナオに抱き付くと、
「どうした?やっぱ病院行くか?」
と抱きしめ返してくれる。
「大丈夫。ナオさんが一番の薬」
「そうか?じゃあ、寝付くまで添い寝してあげるよ」
拓海を抱きしめたまま、ベッドに横になる。
ナオの胸に顔をうずめて、
「昨日、何があったか聞きたい?」
と拓海は切り出す。
もし、聞きたいと言われたら、覚悟を決めないといけない。
嫌われるかな?
他の男に抱かれているなんて、裏切り行為だから。
yoshiがやっぱり良いと離れていくかも知れない。
「無理して言わなくてもいいよ。僕に確認せずに話したくなった時で良いから」
ナオは拓海をぎゅっと抱きしめる。
…ナオさん、
温かい。
拓海もぎゅっとナオを抱きしめる。
「ナオさん…」
大好き。
「拓海…ナオで良いよ」
「えっ?」
「ナオでいい。さんはつけなくて良い」
拓海はナオを見つめ、嬉しそうに微笑むと、
「ナオ」
と呼んだ。
「ナオ…大好き」
「うん。僕も」
ナオは拓海の額にキスをした。
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