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愛しい人 8話
やはり玉子焼きを先に食べてしまった。
少し残しておけば良かったかな?とか思ったりもする。
計画性がないかもな。
なんて考えながら光一はyoshi手作りのお弁当を食べていく。
2個目のお握りを食べた時に下に敷いてあったレタスが膨らんでいる事に気付いた。
レタスを何枚も重ねられているのかと思っていたら、黄色いモノが見えた。
玉子焼き…。
レタスとレタスの間に隠すようにあった玉子焼きを見て光一はつい、笑った。
嘉樹め……。
光一が先に好きなモノを先に食べる事を覚えていてくれたようだった。
ニヤニヤが止まらない。
光一はお弁当を食べ尽くすと、仮眠室から出た。
「美味しかった」
光一はニヤニヤしながらyoshiの側に行く。
「残してないだろうな?」
ソファーに座っているyoshiは光一を見上げる。
「もちろん!残さず食べたら、また作ってくれるんだろ?」
「あんま調子乗んなよ」
yoshiは立ち上がると食べ終わった容器を重ねている。
「洗ってくるから」
とyoshiは豊川に微笑む。
「私が洗おうか?」
豊川が立ち上がろうとするのをyoshiは止めると、
「忙しいでしょ?」
そう言って容器を持って歩き出す。
後ろから付いてくる光一に、 「アンタのも洗うから貸せよ」と手を出す。
「ちゃんと洗って返すよ」
「洗い場狭いんだから、ついてくんな」
yoshiがそう言っても光一は容器を持って付いてくる。
「な~、また作ってくれよな」
気持ち悪いくらいにニコニコした光一。
「だから、あんま調子乗んなって」
yoshiは足早に洗い場へと向かう。
「いいじゃん!豊川のついでで良いからさあ」
「あーー、うるせえ」
「うんって言うまで付きまとうからな」
yoshiの後ろをヒヨコのように付いて行く光一。
「あーーほんと、うるせえ」
文句を言いながらもyoshiは楽しそうに見えて、豊川はドアの前で2人を見送った。
良い傾向なんだろうけど、
yoshiをとられそうで、ちょっと複雑な気持ちになる。
騒ぎながら洗い場に行く途中で事務所のスタッフ達に会った。
「おはようございます、朝から仲良しですね」
スタッフの中に居た佐久間が笑いながら2人に話し掛けてきた。
「仲良くねーし!コイツが勝手についてくんだよ」
yoshiはムッとしている。
「あれー嘉樹くん早いねえ」
マコトとアキもやって来た。
「手に何持ってんスか?」
アキは光一とyoshiがそれぞれ手にしている容器を指差す。
「嘉樹が手作り弁当作ってくれたから」
なんだかドヤ顔の光一。
「えー、何スかソレ!嘉樹君の手作り弁当ですかー!えーいいなあー」
アキは過剰に反応する。
アキの過剰っぷりに光一は益々ドヤ顔になる。
「社長のついでだって言っただろ!」
yoshiは怒りながら否定する。
「社長も光一さんもいいなー」
アキは真剣に羨ましがる。
「俺も嘉樹君の手料理食べたい」
佐久間がボソッと呟くと、アキとマコトも食べたいと騒ぐ。
「もう、ウルサい!洗ってくる」
yoshiは合意に光一の容器を取るとサッサと洗い場へと逃げた。
嬉しいけど、和気あいあいと云う事にyoshiはまだ慣れない。
照れくさいのだ。
「コウちゃん良かったね」
マコトは光一に耳打ちする。
良かったね。その言葉に光一はニヤニヤした。
******
洗い物するyoshiのジーンズのポケットに入れていたスマホがバイブする。
手を拭きスマホを取るとナオからの着信。
「もしもしナオ?」
慌てて電話に出た。
「夕べはごめんな、心配させた」
電話の向こうのナオの声にホッとした。
元気そうだ。
「具合は?」
「大丈夫だよ。それから…しばらく帰れないから、yoshi…1人慣れてないよな?」
えっ?何ソレ?
ナオからの電話で嬉しくて元気だった心が急にシュンとしぼんで行くのを感じた。
次の言葉が出ない。
「だから、豊川さんにyoshiを頼もうかって思ってさ、豊川さん側に居る?」
「…うん、待って」
yoshiは携帯を持ち、社長室へ行く。
「嘉樹、容器は?」
手ぶらで戻って来たyoshiに豊川は首を傾げる。
「ナオから電話」
「ナオ?」
豊川に携帯を渡すとyoshiはまた洗い場に戻った。
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