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愛しい人 9話
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「…くん、yoshiくん!」
「えっ?」
名前を呼ばれyoshiは顔を上げた。
「マコちゃん」
yoshiの側にマコトが立っていた。
「どうしたの?水、出しっぱなし」
「えっ?あっ、」
マコトの言う通り、水道の水を出しっぱなしでボンヤリしていた。
マコトはyoshiの手からスポンジを取ると洗い出す。
「マコちゃん、いいよ!俺が」
「いいよ、僕が洗う」
慌ててマコトの手からスポンジを取ろうとするyoshiを笑顔で交わすと洗い続ける。
「ぼーっとしてたけど、どうしたの?」
マコトは洗う手を止めずにそう聞いた。
「…ナオが、しばらく帰らないって…仕事かなあ?」
yoshiはさっきと打って変わってしょんぼりしている。
「そっかあ、寂しいね。」
「俺、1人になった事なくって…もう、大人なのに1人の夜が嫌い」
「大人でも寂しいものは寂しいし、それにyoshiくん小さい時から寂しがり屋だったでしょ?」
「そう…だっけ?」
「うん、そうだよ!良くまこちゃん一緒にお昼寝してって言ってたよ」
マコトは懐かしそうにyoshiを見て微笑む。
そうかな?
yoshiは昔の事を思い出そうと考えてみる。
必死に記憶を探るなか、絵本を読むマコトの姿がチラチラと脳裏を過ぎった。
あっ、そうだ!
良く絵本を読んで貰って…
マコトが絵本を読む姿。
でも、良く分からない…。
俺って何時まで日本に居たっけ?
お父さんとまこちゃんって知り合いだったっけ?
『何度も言ってるだろ?兄さんは嘉樹の本当のお父さんじゃないって』
頭に急に過ぎったナオの言葉。
違う、
違うよ!
お父さんはお父さんだもん。
「嘉樹くん!」
マコトに名前を呼ばれて顔を上げた。
「顔色悪いよ、大丈夫?」
「うん…大丈夫…」
笑って誤魔化す。
「まこちゃん、洗ったなら戻ろう」
急かすように洗い場を出る。
これ以上、昔話しをしたら…
嫌な事を思い出しそうで嫌だ。
皆が居る場所に戻ればきっと、気が紛れる!
yoshiはそう思った。
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ナオからの電話はyoshiをしばらく預かって欲しいという内容だった。
もちろん!と2つ返事を返す豊川。
可愛い恋人と毎晩過ごせるなんて夢のような話だ。
「あの、光一さんと豊川さんが時間合う日ってありますか?」
「えっ?あっ、カウンセリング…か?」
光一と一緒じゃなければいけない事は1つしかない。
ナオが言っていたyoshiのカウンセリング。
「そうです。毎回、嫌がるんで、騙し騙し連れて行ってるんです。」
「嘉樹と光一の話はあれからしているんですか?」
「…いえ、光一さんと出会ってからのカウンセリングは初めてになるので、光一さんが一緒の方が良いのかなあって」
「光一に話してみるよ。じゃあ、今夜から嘉樹は預かるから」
「お願いします。あっ、それから…」
ナオから色々とyoshiの話を聞いて電話を切った。
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「ナオ…」
まだぎこちない呼び捨て。
「どうした?何か欲しいのか?」
電話を終えて戻って来た直を待ち構えたように拓海は名前を呼ぶ。
「側に居て」
ベッドから両手を伸ばす。
「甘えん坊め!」
ナオは笑いながらも拓海を抱きしめる。
「本当に側に居てくれるの?」
もしかしたら夢か妄想かも知れないと、拓海は再確認する。
「もちろん」
「…嘉樹、どうすんの?アイツ、めっちゃ甘えたで喘息持ってるから心配だって良く言ってた」
本当は口にしたくない名前。
いつも自分と比較していた相手。
ナオがどう答えるかドキドキする。
心配だから帰ると言い出すかも知れない。覚悟をして言葉にした拓海だった。
「yoshiなら心配要らないよ。豊川さんにお願いしたから」
豊川…。
ナオの口から出た名前に拓海は驚いた。
「知ってたの?」
思わず聞き返した。
「えっ?何を?」
ナオはキョトンとしている。
えっ?知らない?
ナオの反応は何も知らないような感じに見えて、
「ううん、何でもない」
と笑って誤魔化す。
豊川と嘉樹はきっと出来ている。
愛し合っている2人。
じゃあ…このままずっと嘉樹は豊川と暮らしてくれるかも知れない。
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