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愛しい人 9話

***** 「…くん、yoshiくん!」 「えっ?」 名前を呼ばれyoshiは顔を上げた。 「マコちゃん」 yoshiの側にマコトが立っていた。 「どうしたの?水、出しっぱなし」 「えっ?あっ、」 マコトの言う通り、水道の水を出しっぱなしでボンヤリしていた。  マコトはyoshiの手からスポンジを取ると洗い出す。  「マコちゃん、いいよ!俺が」 「いいよ、僕が洗う」 慌ててマコトの手からスポンジを取ろうとするyoshiを笑顔で交わすと洗い続ける。  「ぼーっとしてたけど、どうしたの?」 マコトは洗う手を止めずにそう聞いた。 「…ナオが、しばらく帰らないって…仕事かなあ?」 yoshiはさっきと打って変わってしょんぼりしている。 「そっかあ、寂しいね。」 「俺、1人になった事なくって…もう、大人なのに1人の夜が嫌い」 「大人でも寂しいものは寂しいし、それにyoshiくん小さい時から寂しがり屋だったでしょ?」 「そう…だっけ?」 「うん、そうだよ!良くまこちゃん一緒にお昼寝してって言ってたよ」 マコトは懐かしそうにyoshiを見て微笑む。  そうかな?  yoshiは昔の事を思い出そうと考えてみる。  必死に記憶を探るなか、絵本を読むマコトの姿がチラチラと脳裏を過ぎった。 あっ、そうだ!  良く絵本を読んで貰って… マコトが絵本を読む姿。 でも、良く分からない…。  俺って何時まで日本に居たっけ? お父さんとまこちゃんって知り合いだったっけ? 『何度も言ってるだろ?兄さんは嘉樹の本当のお父さんじゃないって』 頭に急に過ぎったナオの言葉。  違う、  違うよ!  お父さんはお父さんだもん。  「嘉樹くん!」 マコトに名前を呼ばれて顔を上げた。 「顔色悪いよ、大丈夫?」 「うん…大丈夫…」 笑って誤魔化す。  「まこちゃん、洗ったなら戻ろう」 急かすように洗い場を出る。  これ以上、昔話しをしたら… 嫌な事を思い出しそうで嫌だ。  皆が居る場所に戻ればきっと、気が紛れる!  yoshiはそう思った。 ****** ナオからの電話はyoshiをしばらく預かって欲しいという内容だった。  もちろん!と2つ返事を返す豊川。 可愛い恋人と毎晩過ごせるなんて夢のような話だ。  「あの、光一さんと豊川さんが時間合う日ってありますか?」 「えっ?あっ、カウンセリング…か?」 光一と一緒じゃなければいけない事は1つしかない。 ナオが言っていたyoshiのカウンセリング。 「そうです。毎回、嫌がるんで、騙し騙し連れて行ってるんです。」 「嘉樹と光一の話はあれからしているんですか?」 「…いえ、光一さんと出会ってからのカウンセリングは初めてになるので、光一さんが一緒の方が良いのかなあって」 「光一に話してみるよ。じゃあ、今夜から嘉樹は預かるから」  「お願いします。あっ、それから…」 ナオから色々とyoshiの話を聞いて電話を切った。 ******* 「ナオ…」 まだぎこちない呼び捨て。 「どうした?何か欲しいのか?」 電話を終えて戻って来た直を待ち構えたように拓海は名前を呼ぶ。  「側に居て」 ベッドから両手を伸ばす。  「甘えん坊め!」 ナオは笑いながらも拓海を抱きしめる。  「本当に側に居てくれるの?」 もしかしたら夢か妄想かも知れないと、拓海は再確認する。  「もちろん」 「…嘉樹、どうすんの?アイツ、めっちゃ甘えたで喘息持ってるから心配だって良く言ってた」 本当は口にしたくない名前。 いつも自分と比較していた相手。 ナオがどう答えるかドキドキする。  心配だから帰ると言い出すかも知れない。覚悟をして言葉にした拓海だった。  「yoshiなら心配要らないよ。豊川さんにお願いしたから」 豊川…。 ナオの口から出た名前に拓海は驚いた。 「知ってたの?」 思わず聞き返した。 「えっ?何を?」 ナオはキョトンとしている。 えっ?知らない? ナオの反応は何も知らないような感じに見えて、  「ううん、何でもない」 と笑って誤魔化す。 豊川と嘉樹はきっと出来ている。 愛し合っている2人。 じゃあ…このままずっと嘉樹は豊川と暮らしてくれるかも知れない。

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