123 / 275

温もり

**** 「ねえ、嘉樹って新崎さんの息子なの?」 ベッドで2人寝転んで、拓海はナオに腕枕をして貰っている。 「そうだよ。あれ?言ったっけ?」 不思議そうな顔をするナオ。 「この前、偶然に聞いた」 「…そっか、あっ…でも、yoshiにはその話はしないで」 「えっ?どうして?」 「記憶が混乱中だから…」 どういう事? 不思議に思っている拓海に説明されたyoshiの話に、ああ、だから、タメ口だったのか。と光一に対してのyoshiの態度に納得した。 「だから、yoshi自身で思い出すまで混乱するような事は言わないで欲しい」 「…うん」 納得したように返事をするが、拓海の中ではモヤモヤした気持ちに支配されていた。 yoshiの存在を一番恐れているのは自分。 結局はナオを信じていないのかな? 先にナオに出会っているのはyoshiだから。 「小さい時のアイツってどんなんだったの?」 いつから好きだったのだろう?yoshiを。 「小さい時は言葉を話せない子だったよ。」 「えっ?」 どういう意味だろう?と拓海は真剣な顔になる。 「兄が居た病院に入院してたんだ。虐待のせいで大人を怖がる子で、言葉を話せなくなってたんだ。兄は小児科医でカウンセラーの資格を持ってたからyoshiの担当になったみたいで…………ある日、兄から遊んで欲しい子が居るって言われて、出会ったのがyoshi」  5歳のやんちゃなはずの男の子が部屋の隅に一日中座ったまま、泣きも笑いもしない… それを遠くから見ていたナオ。  それが出会い。 ******* かなり歳が離れたナオの兄は片親としか血の繋がりはない。  ナオの兄は健人(ケント)と言う名前で、父親が日系アメリカ人。  ナオの母親とは再婚になり、再婚後にナオが産まれた。 でも、ナオが小さい時に両親が亡くなり兄が親変わりとなった。  兄が大好きだったナオ。  大好きな兄に、  「ナオにお願いがあるんだ」 とある日頼み事をされた。  「何?」 「友達になって欲しい子が居るんだよ」 「いいよ。」 大好きな兄の頼みに2つ返事でナオは引き受ける。 「日本人の男の子なんだけど、アメリカに来て間もないから英語が話せなくてね。」 「そうなんだ、じゃあ僕が英語も教えてあげるよ」 ニッコリ笑うと健人は直の頭を撫で、嬉しそうに微笑んでくれた。 「でもね、ちょっと問題がある子なんだよ」 それがyoshiの事だった。  健人からの注意は、 大声を絶対に出してはいけない事。  いきなり手を振り上げない事。  電気を消さない事。  色んな注意を受け、yoshiがどんな状態だったのかを聞いたのだ。  大人を怖がり、誰とも目を合わさずベッドの隅かカーテンの後ろに隠れて1日を過ごす。  そんな状態じゃもっと心がダメになる。  子供のナオなら心を開くんじゃないかと健人は言っていた。  ****** 病室の隅、小さく丸くなり、まるで自分の存在を隠すようにyoshiは居た。 「こんにちは、僕はナオって言うんだ」 遠くから声を掛けた。 でも、全く無反応。 正直、どうしようかと思った。 背中を向けたままの幼い彼の興味を引きそうな玩具や、絵本、思いつく全てを使ったがそれも無反応。  ドアが開いて健人が様子を見にきた瞬間、少しyoshiが振り向いた。 瞳がクリクリとして大きく色白なyoshiは女の子みたいに可愛かった。  「女の子だったっけ?」 と健人に聞いたくらいだ。  「嘉樹は男の子だよ。可愛いから良く間違われるけどね」 うん。女の子みたいだ。 まだ子供だったナオから見ても可愛いと思える程。 「嘉樹くん、ナオはね、先生の弟なんだ。仲良くしてね」 健人の言葉に頷く事もなくyoshiはまた背を向けてしまった。  その日は完全に空振り。 「ごめんな。ナオになら興味示すかな?って思ったんだけどなあ」 「ううん、明日も明後日も僕、遊びに行くよ」 そう言ったのは健人に誉められたいから。  そして可愛いyoshiの声を聞いてみたいし、笑った顔も見てみたいから。 でも、一筋縄ではいかなかった。  独り言のように1人でしゃべって1日が終わる。 ただ、一週間が過ぎた頃、  「また明日来るねバイバイ」 と言った瞬間、yoshiが振り返った。  クリクリとした目はナオを見ている。  わあ、可愛い。 本当にそう思った。

ともだちにシェアしよう!