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温もり 3話
病室の外にも出れるようになったyoshiと散歩するようになって、ある事に気付いた。
30代前後の黒髪の東洋系の男性でラフな格好をして歩いている人を見つけたら後をついていく。
でも、顔を確認すると戻ってくる。
そんな行動をたまに起こすyoshi。
ナオには不思議だった。
健人にも、休日なラフな格好な時はやたら懐いた。
白衣の時はそこまで懐かないのに……。
その疑問を解決出来たのが、yoshiの母親に会った時だった。
「ナオくん?」
いつも通り、yoshiの病室に行く途中で綺麗な女性に声を掛けられた。
「はい?」
返事をすると、女性は近付いて来た。
凄く綺麗な女性。
ナオは照れながら、軽く頭を下げる。
「嘉樹といつも遊んでくれてるのよね?ありがとう。…あの子の心を取り戻してくれて」
女性はyoshiの母親だった。
涙目で何度もナオに頭を下げる。
「あの、僕…そんな遊んでただけだし」
照れて、躊躇するナオ。
母親は本当に綺麗で、さすが元モデルっていう位にスタイルも良かった。
ナオも母親がyoshiに虐待をしていたのを知っている。
どんな母親だろう?と想像していた。
あんなに小さくて可愛い子に容赦なく手を上げれるのだから。
冷たくて残酷な女性のイメージだったのに、 母親の美嘉は綺麗で優しそうで、やはりyoshiは母親似なのだと納得するくらい似ている。
母親は週に2~3回、健人付きでyoshiに会っていて、 母親の話では、yoshiにはまだ触れれないと………。
頭を撫でようとすると、怯えて健人の後ろに隠れてしまうと言っていた。
yoshiに取っての大人の手は自分を傷つけるものでしかなかったのだ。
そんな話をしている中で、yoshiがたまに後を付いて行こうとする理由を知りたくて美嘉に話してみた。
「……あ、それはきっと捜してるのかも…別れる時にいつか絶対に会いに来るからって、あの人が嘉樹に言ったから」
美嘉は切なそうに言った。
「あの人?」
誰だろう?ときょとんとするナオ。
「嘉樹の父親。歌手だったから普段はジーンズにシャツってラフな感じだったの」
ああ、そっか、
あれはお父さんを捜していたのか……。
だからあんなにガッカリしていたんだ。
きっと、いつか会いに来てくれると待っているんだ。
いつも似てる男性が居たら1人1人確かめて、 小さい彼は何を思っているのだろう?
「変な期待させるから……、迎えに来ないのに、いつも泣いてお父さんは迎えに来るって言い張るからつい……」
今は反省している母親は、ナオに何度も頭を下げてお礼を言った。
「あの、お願いがあります。もう二度とよしくんに酷い事しないで下さい!お願いします!」
ナオは美嘉に頭を下げた。
これ以上、あの子を苦しめないで欲しい。
喋れなくなるくらい傷ついて、大人の手を怖がるくらいに怖い思いをしてきた。
あんなに小さいのに…
一人で耐えてたんだ。
これからは辛い思いも、怖い思いもしなくて良いくらい。
僕がyoshiを守る!
*****
「よしくん」
病室を開けると健人と一緒に居たyoshiが嬉しそうな顔をして立ち上がると走って抱き付いて来た。
ナオは小さい体を抱きしめる。
「何して遊んでたの?」
そう聞くとyoshiは直の手を引っ張り健人の所まで連れて行く。
病室の隅に設けられた遊ぶスペースに小さい玩具のピアノが置かれていた。
「あ、」
そのピアノには見覚えがあった。
「ナオが嘉樹くらいの時に遊んでたピアノだよ」
うん。そうだ!
小さい時に父親が買って来てくれたピアノ。
「よしくんピアノ好きなの?」
yoshiに聞いてみると頷き、ピアノを弾き出す。
「えっ?凄い!ピアノ弾けるの!」
yoshiが弾いているのはキラキラ星。
簡単な曲だけど、まさか弾けるとは思わなかったナオは凄い凄い、とyoshiを誉めた。
後から聞いた。
美嘉のカウンセリングもしていた健人は、yoshiがピアノを弾ける事を聞いていて、興味を持つならとピアノを引っ張り出してきたのだと云う。
ピアノに凄く反応を示し、嬉しそうにピアノを弾いてくれたので健人は玩具のピアノを捨てなくて良かったとナオに話した。
yoshiはそれから健人にも懐いてイタズラもするようになっていった。
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