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ココロ
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聞かなければ良かったかな?
ナオとyoshiの絆。
入り込む隙間なんてない…。
「嘉樹が新崎さん忘れたのはどうして?ずっと待ってたんだろ?」
ナオと見つめ合っている拓海。ナオは今、何を考えている?
yoshiの事を考えている?
そう聞きたい言葉をすり替える。
「事故のせいもあるんだ。兄とyoshiの母親と一緒に事故に遭って、2人とも亡くなった…。記憶が混乱してて、僕にも何故実の父親を忘れたのか良く分からない」
「…確かに混乱するよね。でも、新崎さんと接しているから思い出すんじゃない?もし、思い出したらナオはどうすんの?嘉樹を返すの?」
「…うん、思い出して欲しいかな?でも、思い出した後は考えていない。yoshiが望むようにはしたいかな?」
「嘉樹が新崎さんと一緒に居たいって言ったら、手放すの?」
拓海はじっとナオの言葉を待っているようだ。
「嘉樹がそう望んだらな」
ナオはそう言って笑ってみせる。
でも、その笑顔は寂しそうで、 本当は手放したくないんだな。なんて拓海は感じ取った。
ナオにぎゅっとしがみつき、
「ナオには俺が居るじゃん」
自分1人で充分でしょ?そんな想いを込めた。
「拓海…」
ナオはしがみつく拓海を抱き寄せて、まだ火照りが残る頬に手をあてた。
キスを待つように瞳を閉じる拓海の唇へキスを落とし、そのまま体勢を変えて彼の上に乗る。
深いキスをしながら、ナオは考えたくもない先の未来を想像してしまった。
yoshiが望んだら、手放す?
出来るのか本当に?
あの小さい温もりはまだ手のひらや身体が覚えている。
yoshiにとって自分はどんな存在なのだろうか?
抱き締めた温もりをおぼえていてくれてるのだろうか?
僕は亡くなった兄の代わり?
そんな事を考えながら拓海を抱く自分が嫌いなのに、 考えられずにいられないんだ。
*****
yoshiはぼんやりと考え事をしていた。
ナオと暫く会えない。
胸がキューとしぼんで行くのが分かる。
理由…はきっと拓海。
何となく、そう感じた。
このまま、拓海と同棲を始めてしまうかも知れない。
嫌………、 それは嫌!
ナオは自分だけのモノだった。
ずっと一緒に居てくれると思っていて、
でも、
それはワガママだ。
分かっている。
彼にだって人生があるのだから、一生自分の世話で終わらせたくないし、好きな人と一緒に居れるなら、それが良い。
頭では分かっていても、心がついて来ない。
不安が波のように寄せてくる。
息が出来ない。
苦しくてどうしようもない。
ナオはもう、俺より拓海がいいんだ。
仕方ないよね?恋人だもん。
恋人なら仕方ないよ…。
yoshiは何度もココロで同じ言葉を繰り返す。
「嘉樹、眠いのか?」
頭にフワリと置かれた温かい手。
顔を上げると豊川の優しい笑顔。
タケル………………、
そうだ、俺にだって愛しい人は居る。
「タケル、抱っこ」
yoshiは甘えたようにてを豊川に伸ばす。
「なんだ?やっぱり眠いのか?」
豊川はクスクス笑いながらyoshiを抱き寄せた。
ぎゅっとしがみつくと、豊川の香り。
いい匂い。
「嘉樹、眠いなら仮眠室いくか?」
豊川の言葉に返事はない。
「嘉樹?」
何度か呼ぶが返事はやはりない。
しばらくすると寝息のような一定した息が聞こえ、豊川は声に出さずに笑った。
可愛い!
可愛い過ぎる!
腕の中で無防備に眠ったyoshiをゆっくりと抱き上げると仮眠室へと運ぶ。
yoshiを横抱きにしたまま豊川はベッドに寝ている光一を足で蹴った。
「痛っ」
蹴られた光一は短く悲鳴を上げ、目を開けて豊川を見た。
「さっさとベッドを空けろ」
小声だけど迫力がある豊川に光一は寝起きながらもびびってしまう。
そして、豊川に抱かれたyoshiを見て、
「嘉樹どうした?」
と驚きの声を出す。
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