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ココロ2話

「声デカい!嘉樹が起きる」 豊川に注意され、yoshiが目を開けないかドキドキとしてしまった。  「夕べ一睡もしてないからな。寝かせるから降りろ」 豊川の命令は絶対。  しかも理由が理由なだけに光一は大人しくベッドから降りた。  光一が降りると豊川はゆっくりとyoshiをベッドに寝かせてシーツをかける。  「まだ寝たりないなら事務所の長椅子で寝ろ」 ぼんやりと立ちyoshiを見ている光一にそう声を掛ける豊川。  「いや、いいよ」 「なら外へ出ろよ」 yoshiの側で立ち尽くす光一へ命令に近い口調で言うが、彼はyoshiを見つめたままだ。  「暫く見てる」 「は?何を?」 きょとんとする豊川に光一は、  「嘉樹の寝顔」 と答えた。  「見て、どうするんだ?」 「見てたいなあ。って」 「でも、もうすぐ仕事だろ?」 「ちぇ、だよな」 光一はyoshiの頭をくしゃくしゃと撫でると諦めたように仮眠室を出る。 豊川はドアは閉めずに仮眠室を出る。yoshiが不安がるかも知れない。  そんな優しさから。  「なあ、さっき何かナオと話してただろ?」  仮眠室に入る前に豊川はyoshiの携帯でナオと話していた。  「ああ、あれは嘉樹を暫く預かって欲しいって」 「はあ?」 予想もしていなかった言葉に光一の声は大きくて豊川に睨まれた。  「なんで?なんで?お前が嘉樹を預かるんだよ」 光一は不満だらけな顔で豊川に詰め寄る。  「ナオが暫く帰れないからだよ」 「違う!何で預ける相手がお前なんだよ!父親は俺なのに!」 ふてくされたような光一の顔はまるで子供。  全く、ガキの頃と同じ顔しやがって!  豊川は子供時代と変わらない光一の不満げな表情にため息をつく。  「あー、くそ!またため息つきやがって!」 「だから声デカいって言ってるだろ!」 豊川に注意され光一は口を閉じた。  「何でかって?私が1人暮らしだからだ。お前は家族と住んでいる。連れて帰れないだろ?嘉樹の存在を智也くんや拓也くんは知らないから、困惑するし、嘉樹だって嫌だと思う」 ここまでハッキリ言われたら光一はもう反論出来ない。 敗北である。 「じゃあ、俺も夕食とか一緒にしたいから泊まる」 光一はかなり良いアイデアが浮かんだかのような笑顔を見せる。  「却下」 冷たく言い放たれた。  「ふざけんな!お前ばっか嘉樹に贔屓されてさ!俺だって嘉樹と色々話したいし、夕食とか作ってもらいたいんだ」 光一は起こっているが声のボリュームは小さい。 嘉樹が起きるかも!なんて配慮。  「小さい時からそれやってたら良かったんじゃないのか?」 豊川の反論にまた言葉を詰まらせる。  その通りだ。  父親を欲しがっていた時に可愛がらず、今更だろう。  「ちゃんと家に帰れ、お前にはちゃんと今の家族がある。智也くんはまだ父親が欲しい年齢だ。嘉樹の事を後悔しているのなら同じ過ちを繰り返すな」 豊川の言葉は剣のように心臓をざっくりと刺した。  まさに、その通り。  完全なる敗北。  「でも、たまには夕食呼んでやる」 「うわ~上からかよ」 豊川の言葉はいつも間違っていない。  間違っているのは自分。 もし、豊川が父親なら嘉樹はきっと幸せだったはず。 そう考えてしまうとココロはしぼんでゆく。  「豊川みたいなら良かったなあ俺」 「はい?」 光一はいつも主語がない話を突然始めるので豊川はまたか……、なんて顔をしながら聞き返す。  「お前が父親なら嘉樹も拓也も智也も幸せだったんだろうなあ…なんてさ」 笑って見せるが切なそうな目は隠せない。 豊川はひとつ、ため息をついた。  また、ため息かよ!なんて光一に言われるが、  「悪い。なんか言い過ぎた」 と光一に謝りを入れた。 きょとんとなる光一。  豊川が謝った。  えーーっと、  「明日、雨にする気かよ。ロケあるんだぞ」 なんて言って良いか分からずにふざけてみる光一。  「言い過ぎた……。 お前が嘉樹の父親であるのは紛れもない事実だもんな。それに智也くんはお前が父親で良かったって感じに懐いているだろ?拓也くんだって、反抗期なだけでさ…、ってお前、人が懸命にフォローしてるのに、口ぽかーんと開けやがって!」 豊川は謝るんじゃなかったかな?なんて少し後悔をしたのだった。

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