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ココロ 3話
「いや、だって俺らガキの頃からずっと一緒だけど、お前がそんな風に言うの初めてだから、戸惑った」
かなり嫌味のように聞こえるが光一は純粋にそう思って言葉にしたのだ。
「あーー、もう!お前には一生謝らないからな!」
豊川は怒ると光一を社長室から追い出した。
バタンと力いっぱい閉めた後に豊川は慌ててyoshiが起きてないかを確認しに行く。
yoshiは熟睡したままのようで、ホッと息をついた。
ちょっと大人気なさすぎたかな?
と豊川は反省する。
光一があんな風に言うから……。
そんなに謝らないかな?
過去の自分も、今の自分も嫌な奴には変わらないけれど。
豊川はyoshiの寝顔を見つめる。
可愛い寝顔につい欲情して、yoshiの髪やオデコにキスを落とす。
幼なじみの息子か……………。
キスを落としながら、頭の中で考えてしまう。
いつかは光一に話さなければいけないよな?
………あっ、
興奮し過ぎてカウンセリングの事言うの忘れてた。
豊川は再度、反省をする。
*******
「光一さん、また社長を怒らせて、何言ったんですか?」
バタンと勢いよく閉められて立ち尽くす光一にアキが話掛けてきた。
「いや、俺にも良く分からん」
「はい?」
光一の答えにアキは首を傾げる。
「さて、仕事行くかあ」
仕切り直すように光一は背伸びをして、そう言った。
「あ、その事なんですが、キャンセルになりましたよ仕事」
とアキ。
「えっ?俺、何かしたっけ?」
光一はたまにスキャンダルで仕事が無くなる時があるのだ。
「いえ、HIROTOが事務所クビになったからスポンサーが降りたんです」
「あーね、そっかHIROTOクビかあ。真鍋は自分に恥かかせる奴嫌いだからなあ」
光一はそう言って頷きながら納得している。
「HIROTO人気出てから天狗になってましたからね。芸能界クビになったら、どうやって食っていくんスかね?」
「女に食わせて貰うんじゃないか?今更他の仕事とか就きたくないだろうし」
そんな会話をしているとスタッフの1人がやって来て、
「あの、社長に面会したいって人が」
と光一に声を掛ける。
「豊川に?誰?」
「田中薫さんって男性の方で」
たなかかおる?
光一は言われた名前を頭の中で再度繰り返し、
俺の知っている奴に同じ名前の嫌な奴が居た。
同姓同名で違う人物でありますように。
なんて思いながら
「そいつ、背が豊川よりデカくてガタい良くて目つき悪くていかにも素行悪そうな奴?」
と聞いてみた。
「あ……………、そんな感じですね」
スタッフは頷きながら答えた。
「ひでえ言いようだな新崎」
聞き覚えのあるバリトンボイス。
スタッフの後ろにいつの間にか薫が立っていた。
「うわーーマジで田中かよ」
光一は露骨に嫌な顔をする。
「露骨に嫌な顔しやがって喧嘩売ってんのか、あっ?」
威嚇する薫のバックミュージックはヤクザ物の映画音楽が似合う。
「相変わらずだなあ。豊川に何の用だよ」
「豊川の用事をお前に言う必要はねえなあ。早く豊川呼べよ」
薫は見かけ通りの短気なので、これ以上待たせると命がないか、事務所が壊されるかなので光一は豊川を呼びに行く。
「は?薫が?」
光一に薫が訪ねて来た事を聞くと豊川は驚くように目を見開いた。
アイツ………、
何しに来たんだ?
動揺というより困惑。
豊川はチラリと仮眠室を見る。
この部屋には入れれない。
yoshiの事は出来るだけバレたくないから。
「分かった」
豊川は上着を着ると出掛ける用意をし、社長室を出た。
「アイツとまだ付き合いあったんだな」
光一は薫が苦手なので、凄く嫌そうだ。
「この前偶然に会ったんだよ。」
入り口近くに見えてくるガタいのよい体型。
ブランドスーツが良く似合う薫が豊川を見つけニヤリと笑う。
「よう。この間振り」
「何の用事だよ」
豊川は愛想をふりまくでもなく、薫の前に立つ。
「愛想くらいふりまけよタケル。まあ、いいけどな。…外出れるか?」
薫と社長室に行くわけにはいかず、少しなら。と豊川は薫と外に出た。
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