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第8話:【可愛いは正義とは本当なのか】言ってることは恰好良いけど肝心の目的がダサいよ

「可愛い後輩の役に立てるなんて、兄崎先輩も嬉しいでしょう?」 「嬉しかねぇよ!」 何が分かりましただ。これっぽっちも分かっていない。 人々の視線が交差する。女性店員が苦笑をうかべ兄崎を見る。 好奇の笑みをうかべた女子高生の集団が、こちらを指差しひそひそと何かを話している。 ときおり、奇声じみた悲鳴と笑い声が店内に流れるオルゴールの音色に絡む。 兄崎は向かいの、クレープ屋を眺めた。 可愛らしい雑貨店の向かいにクレープ店があれば、自然と女性客も集まるだろう。 男なんてほとんど寄り付かない。 通路を通り過ぎるか、恋人らしき少女に強請られて一緒にクレープを購入しているかくらいだ。クレープをを手に小さな椅子に座る女子高生がジュースを飲みながらこちらを伺っている。 面白いテレビでも見ている気分なのかもしれない。 「優紀、腹減ったからクレープでも食べようよ。」 兄崎は雑貨店の入り口で店員と何度も同じやり取りをする五十嵐を見て、フレデリックを見る。 するとフレデリックは一つ頷き、笑顔を浮かべ五十嵐の口を後ろから手でふさぐ。長い両手にすっぽりと包まれた小さな体がびくりと撥ねる。 「おねぇさん、ごめんね。この子頑固なんだ。ほら五十嵐、優紀がクレープ奢ってくれるって。俺も食べたいから早く行こう。」 先ほどまで横槍を入れともに女性店員を困らせていた男は、何事もなかったかのように調子よく笑う。 「そうそう、お兄様がクレープ買ってあげるからもう諦めるんだ。」 食べ物で釣ればすぐに縫いぐるみのことなんて忘れるだろうと思っていたが、五十嵐は眉間にしわを寄せ口をふさいでいた手に噛み付いた。 「いって!!ちょっとおお!!?」 「あんな、数百円程度の砂糖と脂肪の塊でこの僕が諦めるとでも?馬鹿にしてるんですか?お子様は引っ込んでろ。」 フレデリックの方が数カ月誕生日が遅い。しかし、同級生だ。 「はぁ?非売品の縫いぐるみ欲しさに駄々こねてる奴は子供じゃないの?それから俺、君を初めて見た時、同級生どころか中学生かと思ったんだけど?」 「欲しいものを諦めるのは漢のすることでは有りません。どんな汚く姑息な手を使ってでも手に入れてみせる!」 「言ってることは恰好良いけど肝心の目的がダサいよ。」 「フレディ君の馬鹿っ!!さっきは味方してくれたのに。僕を弄んで最低です。」 「何か店員とのやり取りに飽きた。クレープ食べたい。」 「あんな砂糖と脂肪の塊を優先するんですか?酷い。」 砂糖と脂肪の塊という言葉に、クレープ店でたむろしていた少女たちがぎょっとした顔でこちらを見る。あ、俺関係ないんで。兄崎の顔は引き攣った。 五十嵐を思い切り殴りたくなったが、理性を総動員し、にっこりを微笑みかけた。 子供に言い聞かせるつもりで、ゆっくりと言葉を発す。 「五十嵐。いい?これは非売品なんだよ。いい加減あきらめて。」 「――…おい、このヘタレ野郎。誰に向かって口を利いているんだ。ぶつ切りにして学院の池にいる鯉の餌にされたいか。」 ひぃいいい。 兄崎は一瞬だけ息が止まった。 紛れも無く、殺し屋の目をしていた。

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