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第2話

机に向かって仕事をしていたら、部署の人間が事務室のドアにきて、「東城、お客さんだぞ」と言われた。 東城は返事をして立ちあがるものの、いぶかしんだ。来客の予定はない。 「大井戸署の広瀬っていう、すげえ、美人が、お前に会いたいってさ」とからかうような口調だった。特になにか思ってのことではないだろう。 小会議室を教えられた。動揺を隠すことができたか自信がない。廊下に出ると、かなり速いスピードで会議室に向かった。 広瀬が、突然何の用だというのだろうか。自分に会いに来るなんて。 仕事のためだろうか。仕事?だが、会いに来るような仕事は思い当たらない。 嫌な予感が頭をぐるぐる回る。例の奇妙な歯茎の物質のことか。それとも、ほかに何かあるのだろうか。急いで伝えなければならないほどのことというと、悪いことしか思いつかない。 会議室のドアを開ける前に、ふと、1人じゃないかも、と思った。仕事なら、2人で来るだろう。宮田と一緒か、ほかの誰かと一緒か。 顔を左手でなでて、取り繕った表情になるよう息をつく。ドアを軽くたたき、あけた。 広瀬が一人、いつものすました顔をして、姿勢よく座っていた。誰かがご丁寧に彼に紙コップでではあるが茶を出してやっている。 彼が、東城が入るドアの音にこちらをむく。感情のない透明な目だ。彼に焦った様子はない。 そうだ。焦っているのは自分だ。 広瀬は立ち上がり、軽く頭を下げた。 「一人か?」 「お忙しいところお時間とらせてすみません」と抑揚のない声で言った。 「は?えっと、突然来るなんて、どうしたんだ?」 広瀬は書類を机の上に置いている。彼は正面の椅子に東城に座るように促した。東城が座ると広瀬も座った。 「何の用だ?」 広瀬は書類を形のいいきれいな手で持ち上げ、内容を見せてくれた。 「この調書は東城さんが作成されましたか?」 東城は書類をしげしげとみる。 「2年半前の調書です」 「ああ、俺が書いたものだ。これが、なに?」 広瀬はうなずく。「3日前に、工事現場から遺体が見つかったのはご存知ですよね」 「ああ。っていうか、お前、あの日帰ってこなかったから、電話で話したじゃないか。あのご遺体がどうしたんだよ」 「今、身元を確認中なのですが」そう言いながら別な書類を差し出してきた。「東城さんが2年半前にこの調書を取った人物ではないかと推定されています。正式には鑑定待ちですが」 「ええ?!」 書類を手に取ってみる。

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