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第4話

そんなことがあった日、早めに仕事が終わったので、家に帰ってゆっくり風呂に入っていると、脱衣所に人の気配があった。 浴室のドアが開いて、広瀬が入ってきた。 「おかえり」と声をかけると、「ただいま」と返事はしてくる。 湯気の向こうで、彼は、シャワーを浴び、泡だらけになって身体を洗い始めた。まっすぐな背中がきれいだ。 ゆるい長方形の浴槽の中、東城と反対のサイドに広瀬は入ってきた。 お湯が熱いのか、慎重につま先から沈んでいく。寒いところから帰ってきたため、お湯があたった部分だけが、赤く染まっている。 広瀬は肩までつかり、足を伸ばしたので、東城の足にあたる。彼は、目を閉じ、深い息をついている。気持ちよさそうだ。 「早かったんだな」と東城が言った。 「明日、出張なので」と広瀬が答える。 東城は手を伸ばし足をなでるが、避ける様子はない。ざぶっとお湯から半身を起こし、広瀬の近くで向かいあった。 「今日、なんでわざわざ会いに来たんだ?」と聞いた。「あの程度の話なら、帰ってからできただろうに」 「高田さんに聞いてこいと言われました」 「そうか。でも、別に言われた通りしなくてもよかったんじゃないか?それほど急ぎでもない話だったみたいだし」 「高田さんの命令でしたから」と広瀬は再度答える。 「適当にごまかしたりはしないんだ。いつもそうだけど、真面目だな」 「ごまかす必要もないと思いますけど」 「そうだな」と東城は言った。顔をよせてキスをした。彼はあっさり受け入れる。

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