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第7話

広瀬が出張に行って二日後。東城は夜遅くに膨大な量の書類をまとめていた。 上司の福岡が自分の机に偉そうに座り、かかってきた電話に応対している。珍しく小さい声で話している。最初は、神妙な顔をしていたが、だんだん、面白がっている顔になったときから、嫌な予感はした。 電話が終わるとにやにや笑いながら、東城に指で、こいこい、と招く。 行きたくはなかったが、無視するわけにもいかないので、机の前に行った。面倒な仕事を押し付けられるのだろう。 「なんでしょうか?」と東城は聞いた。 「大井戸署の課長から電話だ。なんと、俺に協力要請してきた」と悦に入っている。 大井戸署の課長は福岡のことが嫌いなのだ。あからさまに居留守を使うこともあるくらいだ。 「お前が大井戸署で調書とった人間が死体で見つかったそうだな」 その件か、やっぱり問題になっているんだ。 「大井戸署では、その時の喧嘩の相手の女に話を聞こうとしているらしい。ところが、その女、協力を拒否している。で、だ、色男。女は、お前をご指名で、お前になら話すって言ってるそうだ」福岡は楽しんでいる。「お前、調書とってるときに、相手に何してんだ?そんな教育をした覚えはないぞ」 「何もしていません。普通に話を聞いただけです」 「いい女なのか?東城君好みの美人?うらやましい限りだね」 「2年以上前の件で、顔も何も、覚えていませんよ」 「じゃあ、それほどでも、なのか?そういえば、この前、あの、大井戸署の美青年がお前を訪ねてきたそうじゃないか。この調書の件だったのか?」 「美青年って、広瀬ですか?広瀬は、調書の内容について確認に来ただけです」 「そうか。なんにしても、大井戸署は困っているらしい。ご協力願いたいってさ、あの課長。渋面が目に浮かぶようだ。お前、行って、話聞いてこい。大井戸署に恩を売るいい機会だ」 「群馬の温泉まで行くんですか?」 福岡は、ふと、にやにやをとめる。「女がそこにいるってなんで知ってるんだ?」 東城は、表情を変えないようにした。「広瀬が言っていました」 「へえ。あの坊やはお前に何でも話すんだな。そういえば、前、青キヨラ事件の時も、お前、やけにことの顛末に詳しかったな。あの時も、確か、広瀬が情報源だったな。おかげで、こっちは、早くに技術書の会社を抑えられたから助かったが」と福岡が言う。「そういう情報源は大事にした方がいいぞ。縦割りな組織だとなかなか他部署の情報は入手できないからな」 情報が得られないのは、福岡さんが嫌われてるからですよ、と東城は内心思ったが、もちろん、相手には言わなかった。

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