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第10話

「お前と二人で温泉かあ。神様がくれたご褒美だな。普段、行いがいいから」 「ビジネスホテルには、温泉はありませんよ」 「温泉のあるホテルとったから」と東城は言った。「ホテルというか、旅館だな。お前も今晩は、そっちに移動だ」 「でも、用件は今日中に終わるかと」 「大丈夫。今日は泊まりって決めてるから。用事が終わろうと終わるまいと」 なにが大丈夫なのかと思うが、そんなことを言った。そして、そっと広瀬の背に手をかけて押した。 「まずは、その(くだん)の女性に会いに行こう」 そう言われたのでまずは丁重に頭を下げる。 「今回はお忙しいところご協力ありがとうございます」 「あ?ああ。そう、かしこまって言わなくても」 「きちんとお礼を言えと高田さんに言われました」 「そういうことか。他には何を言われたんだ?」 「東城さん、人の信頼につけこむようなところがあるから気を付けろ、と。高田さんと何かあったんですか?」 「陰で言われている悪口を実際に聞かされるって、面と向かって悪口言われるより気分悪いな。その件ではとっくに高田さんには怒られた。だから、もういいんだよ」と渋い顔をして東城は言った。

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