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第11話
東城が調書をとった女性は、この温泉地の小さなカフェで働いている。名前は早乙女瑠美子だ。カフェは、数年前はおしゃれな店として始まったのだろうが、今は、そのコンセプトが揺らいでいて、庶民的な定食屋とカフェの間くらいになってしまっている。彼女は雇われ店長だということまではわかっている。
広瀬は、近くまで行くと、東城にその場所を示した。
「東城さん、一人で行かれた方がいいですよ」
「なんで?」
「俺、あまり好意的に思われなかったんです。一緒にいると、話をしてくれないと思います」
「ふうん」と東城は言った。「この時間でも大丈夫なのか?」
「昨日の夜、お願いしておきました」
「わかった。お前は、どうするんだ?」
「小松はこの隣町の出身です。隣町で小松のことを知っている人を探してみます」
そうして、終わったら連絡をしてくれといって、カフェから遠ざかって行った。
広瀬は、小松のことを近所の人に聞いた。家族や親しい友人など小松に関係のありそうなことを何でもいいので聞いていく。だが、田畑が大半の土地のため、家々は少なく、雪深くて人通りもないため話を聞けた人は少なかった。
小松は、高校を卒業し、すぐに上京した。父親は彼が高校生のころに亡くなり、そして少し前に母親が亡くなったため、家族と呼べる人間はもうこの土地にはいない。兄弟は東京にいるようだが、ここに帰ってくるものはいない。母親が暮らしていた家は、すでに二束三文で売られていた。小松のことを覚えている人も少なかった。そのため最初話を聞いても、無関心で返事は少なかった。関わり合いになりなくなさそうな人もいた。
何人かは警察に話を聞かれるということに興味をもち、記憶の中を探してくれた。息子が中学の同級生だったといって、アルバムを出してくれる老人もいた。
卒業写真で見る限りおとなしそうな印象の薄い少年だった。
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