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第13話
車の音に男たちもちらと目を向けるが、すぐに広瀬に視線を戻した。
「で、小松は?」と男の一人が重ねて質問してくる。
東城が、囲まれている広瀬にすぐに気づき、走ってくるのが見えた。
「自分も小松さんのことを知りたいので、ご協力いただきたいです」と広瀬は相手に言った。
「あぁ?小松のことなんで探ってるか、おとなしく言えよ!」
胸倉をつかまれそうになったので、その手は、右手ではねのけた。できるだけ穏やかに会話するつもりだったが、思ったより強い力がでてしまったようで、余計にむっとされ、こぶしを握られた。
殴られそうになった直前、男の後ろに素早く来た東城がその手首をとり、背中にねじあげた。こぶしを握った男は痛みで声を上げた。
「なんだ、てめえ!」と別な男からは怒声があがる。
そう強がってはいても、急に分け入ってきたガタイのでかい精悍な男に、男たちはややひるんだ。
東城は「4対1というのは、フェアじゃないと思って」と言い、さらに、男の腕に力を入れる。腕をとっていた右手をぐるっと動かしてバランスをくずさせ、そのまま男を地面に倒した。
「いたっ!」と悲鳴がする。
その悲鳴に呼応した意味をなさない怒鳴り声とともに、1人が東城に殴りかかった。男の横に身体を入れると、軽く足払いをして、また、雪の道路に転ばせた。動きに無駄がなく速い。
あっというまの動きだ。おまけに楽しそうにしている。東城は広瀬に喧嘩好きといっているが、東城だって相当好きなのだ。大柄なので彼に喧嘩を売る人間が少なく機会がないからできないだけだ。
東城が息も乱さずあっさりと二人を倒したので、残りの二人は後ずさりをする。
「逃げないでください」広瀬は、一人の腕をつかんだ。
「に、逃げはしない」とその男は答える。
「小松さんを探しているのは、なぜですか?」
「行き先を知っているのか?」
「答えるべきなのはそっちだろ」と東城が威圧感たっぷりに男を見下している。
「お前、こいつの仲間?」
「そうだろ、普通に考えれば。こうやって助けにきてるんだからな。まずは、質問に答えろ」
「小松は、持ち逃げしたんだ」
「おい、言うなよ!」倒れされた男が足を痛そうにさすりながら言う。「乱暴しやがって。警察呼ぶぞ」
「あー。本気で通報を?そちらにとってもいい結果ではないのでは?」と東城が答える。「あんたたちの話も内密にするし、場合によっては、小松の行方、教えてやる。小松は、何を、持ち逃げしたんだ?」
4人は顔を見合わせお互い探りあっているが、広瀬がつかんでいる腕に力を入れると、男が口を開いた。
「組合の、金だ。小松が、管理してたんだ」
「組合というのは?」
「この辺の知り合い同士の親睦会だ」
「小松さんは、ここには住んでいなかったようですが、親睦会には参加されていたのですか?」
男は答えなかった。
「親睦会っていうのは、富くじ、賭博みたいなものか?」と東城が質問する。
相手は答えないが、ほぼ認めたような表情だった。
「小松さんは、違法賭博の金を持ち逃げしたのですか?」と広瀬は重ねて聞いた。
「さあな。で、小松はどこに?」
広瀬は、手を離した。この騒ぎを察知して、ほとんど人気のなかった道路に人が2~3人でてきている。
「それは、まだ、申し上げることができません」と広瀬は答える。
「知ってるってことか?」広瀬に詰め寄る男に東城が視線を移す。少しでも広瀬に手を出したら相手を殴り倒すことはやぶさかではなさそうだ。広瀬は、東城に首を横に振ってみせた。
「小松さんのことで、詳しくお話を伺いたいのですが、可能ですか?」広瀬は、相手を刺激しないようにゆっくりとした動作で内ポケットに手をいれ、身分証と名刺を出した。
「警視庁?」男たちの顔がひきつる。「こういう捜査していいのか?」
「そちらが急に話されたので、ご説明する時間もなかったですから」広瀬は、名刺を4人にそれぞれ渡した。「みなさんのご連絡先を教えていただけますか?」
「何言ってんだよ。言うわけないだろ」
「そうですか。我々は、明日までこの地域にいます。ご連絡いただければ、会うことはできます。明日以降でも結構ですので、小松さんのこと教えてください。なんでも結構です」
「お前も、警察?」と東城は聞かれる。
東城も身分証をみせた。
4人はあまり確かめもせず、嫌そうな顔をしていた。それから、周辺の人の視線などを見た。それほど間をおかず、彼らは黙って車に乗り、去っていった。
「大丈夫か?」と東城は広瀬に聞いてくる。
「何がですか?」
「摑まれてただろう」
「それはすぐによけました」と広瀬は言った。「話をしていただけです」
「殴り合いになったら、負けてただろう」
広瀬がむっとしたのが分かったのだろうか。あわてて言葉を付け足している。
「いくらお前でも、4人相手じゃ無理って意味で言ってるんだ。誰でも1対2以上はやばい」
「東城さんが来て、うれしそうに倒したから、連中は、小松についての情報をださなくなりました」
「え?!俺のせい?あいつら話す気はゼロだったろう。俺がいようが、いまいが。それに、俺がいなかったら、お前、殴られてただろ」
「よけられました。あんな風にかばわれるのは、不本意です」と広瀬は答えた。そして、その会話を終わりにした。
東城を後ろに残し、道路の向こうにわたる。先ほどからこちらを見ている年配の男性に話しかけた。
「すみません」近寄っていくと、男性は驚いていたようだが逃げなかった。「今の、4人組、どこのだれか、ご存知ではありませんか?」
男性は、ああ、とうなずく。
そして、近隣の町のチンピラだといった。ヤクザかもしれない。昔からこの辺りに出入りし、ほとんど働きもしないでぶらぶらしている。地元育ちで、粋がっているが地元からはなれずに不満ばかり言っている連中だ。名前などの詳しいことは、隣町の世話役なら知っているだろう。とのことだった。そして、その世話役の連絡先を教えてくれた。
「ありがとうございます」と広瀬は丁重に礼をいった。
「あんたがたは、警察の人?」と聞かれる。
二人で身分証を出した。
「ああやって人を倒したりするの初めて見るよ。いつもあんな風に捜査を?」
「いえ。とんでもない。突発事故みたいなものです。忘れてください」と東城が男性ににこやかに言った。
いくつか質問をしているうちに、バスがやってきた。広瀬と東城は、再度礼を述べて、その場を去った。
バスにはほとんど人は乗っていなかった。中はシンとしており、二人は無言で最後部の座席に座った。
窓から見えるのは雪と田畑、遠くの山。ところどころに家と倉庫。何の宣伝かわからない看板だった。
バスは電車の駅前でとまり、二人はそこで降りた。
「早乙女瑠美子は、どうでしたか?」とやっと口を開いて広瀬は聞いた。
「宿で話すよ」と東城は言った。
それから、表通りにでるとタクシーを停めた。辺りは暗くなり始めている。
広瀬の泊まっているビジネスホテル経由で自分が予約した宿に行くよう指示した。
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