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第16話
内風呂の広い湯舟は、檜の香りがした。お湯が贅沢に絶え間なく流れてゆく。暖かい色の灯りが洗い場に3か所あり、辺りをほのかに照らしている。お互いがみえるような見えないような、微妙な明るさだ。
「そっちの足をあげて」と東城が言った。
広瀬を木の風呂いすに座らせて、東城が本当に身体を洗ってくれていた。暖かいお湯をかけ、海綿スポンジを泡立てて、背中を首を丁寧に洗った後は、前にきて、足をあげさせた。
指を一本一本泡で包んでいく。足の裏をするりとなでられ、くすぐったくて足をうごかした。
「足裏マッサージしてやるよ」
そう言って、土踏まずのところを太い親指で押す。程よい力が入ると気持ちいい。広瀬は目をとじて、彼の手に足を任せた。大きな手がぎゅっぎゅっと押してくれると疲れがとれる。そういえば、寒いところに長くいたので、身体に力が入りすぎ、こっていたのだ。
もう片方もやって欲しくて、足の指で彼の手をつついた。東城が軽く喉を鳴らして笑い、そちらの足もつかむ。
「これ?」といってツボを押されたので、うなずいた。
しばらく無言でマッサージをしていて、ふと、思い出したように「きれいな足だ」と東城は言った。
お湯をかけて泡を流すと、「指の先とか、爪とか、こんな薄桃色でいいのかよ」と言う。足の指を手の人差し指でじっくりとなぞっている。持ち上げられて、足の親指を口に含まれた。
「あ、」声が漏れてしまった。思わず目を開けてみると、東城がこちらを見ていた。
軽く歯を親指にあてられる。
目に欲望が浮かんでいる。性欲というよりも食欲のような感じだ。このまま親指から順番に食べられてしまいそうだ。
だが、彼は口から足をはなした。そっと床におろされる。
広瀬は、手を伸ばして彼の顎に触れた。顔を寄せて唇を合わせると、答えてくれる。東城が口を開けて、自分の唇を包み舐めてくる。少し口を開けると中に舌を入れてきた。くるっと口内を巡る。逆に彼の舌を吸おうとしたら、ゆっくりと口が離れていった。
「全部洗ってからにしような」と彼は言い聞かせるように言った。
そして、再びスポンジで全身を丁寧に洗っていった。
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