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第17話
湯船の中で広瀬は彼に後ろから抱かれた。筋肉がほどよく発達したたくましい身体を背もたれのようにして身体を預けた。後ろから頬や首筋、肩の先端に口をつけられる。
広瀬はそのたびに息を吸った。お湯の潤った空気がのどを通っていく。後ろを手探りして、彼の顔に触れる。少し手に力を入れた。
「欲しい?」と聞かれた。
欲しがっているのは彼の方だ、と広瀬は思う。
東城の欲望はすっかり硬く立ち上がり自分の背中に当たっている。
そう伝えたら、低い声が返ってきた。
「ああ、俺は欲しいよ。すごく、欲しい。でも、もう少し、こうしていよう」
「どうして?」
わずかな間が開いた後で東城が言った。「お前、まだ、少し緊張してる」
「え?」何を言っているのかわからなかった。「緊張なんてしていません」
「ん、そうだな」と東城は同意した。
「どうして、そんなことを?」
返事はない。その代わり、彼が耳の後ろに唇を這わせて来る。
広瀬は、再度聞いた。「何でですか?」
「お前、慣れない場所って苦手だろ。ホテルに泊まるの好きじゃないって言ってたし。こうやって身体に触ってると、いつもより緊張してるのわかるから」と彼は言った。
「そんなことありません」確かに知らない場所は苦手だが、気を使われるほどではない。
東城はうなずいた。「わかってる。これは俺の趣味だから。できるだけリラックスしてほしいんだよ。その方が、お前もよく感じるし、一緒に気持ちよくなりたいんだ」声が優しかった。「目をとじて、深呼吸して。もっと、俺にもたれて。そう」彼の声だけが、広瀬の耳に入る。
大きな手で、太ももを繰り返しなでられた。腹もさすられる。
自分は、緊張しているのだろうか。そんなことはない。だいたい、東城は知らない場所でリラックスしすぎなのだ。自分の方が普通なのだ。
身体を東城の手から離し、むきをかえた。お湯が大きくゆれて、こぼれる。
彼の腰に足をまわし乗り上げるようにして正面から座った。
噛みつくようにキスをした。彼の口の中に舌を入れ、上顎を舌で攻める。こうやって何度も行き来させると感じるはずだ。
目を開けてじっと相手を見ていると、東城の目が面白がるような表情になった。
彼はわずかに顔をずらして、息継ぎをし、主導権を握ろうとしている。
手を彼の頭の後ろに回して力を入れ、固定した。逃がさない。そうして舌を吸いあげさらに深いキスを長い時間続けていたら、彼の目の色が変わった。
いつもより積極的な自分をからかうような、穏やかだった空気が、先ほどの食欲に近い欲望に変わる。
彼が動いた。
「あ」
ばしゃっと大きな水音がした。ほとんど抱き上げられるようにして湯船から立たされた。
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