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第19話

風呂から出たら布団はもう敷いてあった。広瀬は宿の浴衣を着て、腹這いに横たわった。 身体がだるくて重いのは、疲労のせいだけではない。東城にいいように翻弄されて、指先まで溶けてしまったせいだ。 あの後、湯気のように雲散霧消してしまった意識を、かきよせて元通りに戻るのにかなり時間がかかった。まだ、身体の中は熱くてどこかがズキズキともどかしいような痛いような、しびれる感覚のままだ。 しばらく身体を持て余していたが、やっと、おさまってきた。 すると、お腹がすいてきたのに気づく。夕飯は何時からだろう。壁をぐるっとみて時計を探すが、見当たらなかった。スマホを取りにいくにはやや怠い。 東城は、電話で話をしていた。時々笑っている。相手は、同僚の竜崎という男だ。竜崎は階級も年も東城より上だが、なぜが、東城はため口をきいている。かなり親しいのだろう。仕事の話もしているが、世間話もしている。楽しそうだ。 じっと見ていたら視線に気づいたのだろう、ちょっとしてから電話を切った。 「どうした?」と聞かれた。 「お腹がすきました」 「ああ。それは大変だ」と彼は言った。 どうして自分が空腹というといつも彼が笑うのかわからない。 「もうじきだよ」子供をなだめるような口調で言いながら、隣の部屋にある内線電話で早めの準備を頼んでくれた。

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