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第21話
「こんなことしてたら、いつまでたっても食べ終わりませんよ」
「まあまあ。これでも穏便にやってるんだ。本当はさ、お前を縛って自由を奪ってしまいたい。お前が食べたいものや、俺にして欲しいこと全部俺に声にだして言わないとならないようにしたいんだけど、我慢してるんだ」
「よくそういうこと思いつきますね」呆れると通り越してしまう。
「こういう宿で泊まる機会があったら、なにしようってずっと考えてるからな。まあ、縛ったらお前が怒ってつまらないことになるだろうからしないけど」
「賢明ですね」
肉をもう一口食べさせてくれた。
「食べた後は、何してほしい?この非日常を楽しめることしたい」
そっとキスをされる。
ところがそこで、座卓の端に置いてあった東城の携帯が鳴った。
彼は画面を見た。そして、真顔になると立ち上がり電話をとり、布団が敷いてある部屋に移動していった。
広瀬は彼が電話をしている間に自分の前の夕食を食べた。さっさと食べてしまおう。東城の遊びに付き合っていたら食べ終わる頃にまたお腹がすきそうだ。
電話には時間がかかりあらかた食べてしまった頃に東城が戻ってきた。表情が固い。
「非日常って」そう言って彼を見上げたら苦笑いをした。
「ああ、悪い。どうしても日常が追いかけてくるな」
そして、広瀬がほとんど自分の食事を終えたのを見た。
「俺のも食べる?」
「いいんですか?」
「いいよ。俺は日本酒飲むから」と彼は言った。
隣に座ってくるのでガラスの酒器を渡し、注いでやるとうれしそうな表情になった。
「お酌してくれる手首が色っぽい」
「そうですか?」
広瀬のガラスの酒器に返杯してくれたので口をつけた。美味しい日本酒だ。家用に買って帰ろうか、と思う。東城が食べないといった肉に手を伸ばしたら、今度は広瀬の携帯がなった。見ると宮田からだった。
何度か鳴っているので仕方なくとった。
用件を聞いて電話をきると、東城が言った。「なかなか非日常にはならないな」
「東京から近いので」
「距離の問題か。ブラジルでもいくか?地球の裏側まで行ったら邪魔されない」
「ブラジルでゆっくり温泉ってわけにもいかないでしょう」
「そうだなあ。宮田、なんだって?インフルエンザじゃないのか?」
「治ったそうです。明日から出勤するそうです。それで、俺が東京に戻ったら、待ち合わせして、小松が経営してた事務所に行くことになりました。今は、小松の同僚が経営している興信所です」
「何時?」
時間を言うとうなずいた。「明日は結構忙しいな」
「そうですね」
食事を再開しようとしたら、手をつかまれ、また、キスをされた。
「今日は、もう寝たことにしよう。これからは、本当に非日常」
「東城さんのほうが非日常の実現が難しそうですけど」
「そんなことはないさ」と彼は言い、言葉通り電話の電源を落とした。
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