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第22話
広瀬が群馬から帰った後、待ち合わせ場所に現れた宮田はマスクをしていた。
「インフルエンザは治ったんだけど、用心してるんだ」と彼は言った。「大変だったぞ。40度近い高熱で。頭ふらふらするし、身体痛くて動かせなくて」とさかんにインフルエンザの辛さを広瀬に訴えてきた。
広瀬は適当にうなずいた。
どうして人は病気や怪我をするとその話を詳細に話したがるのだろうか。相手をしている人は、誰も真剣に聞いてはいないのに。
「広瀬もインフルエンザ気を付けた方がいいぞ。人の話聞いてる?」
「うん」
「気のない返事だな。俺がいない間に、群馬の温泉行ったんだって?」
そういいながら、いくはずだった隣の班の『触り上戸』の男の名前を言われた。
「宮田のインフルエンザがうつったから来なかった」
「そうなのか。知らなかった」と宮田は言った。「罰があたったんだな。あいつ、広瀬と温泉行くんだってわざわざ電話で自慢してきたんだ。俺が熱でうなされているときにさ。じゃあ、一人で行ったのか?」
広瀬は口ごもった。夕べの東城との長く濃厚なセックスがフラッシュバックのように頭の中で浮かんでは消える。今思い出してる場合じゃないだろと自分に言って打ち消した。
「どうしたんだ?」
「何でもない」と広瀬は言った。顔が赤くなっていないといいんだけど。「それより、もう行こう」と促した。
「ああ、そうだった」と宮田は同意した。
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