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第27話
ファイルの最初にあったのは、社員500人ほどの会社の社長だった。名前は島村と言う。突然訪ねたのだが、待たされたのは30分程度だった。
島村は、背が高く体格のよい50代前半の男だった。小柄な小松を殴って、死体を運ぶことはできそうだ。
「お待たせしました。お話しする時間はそれほどないのでできれば15分くらいでお願いしたいです」
そう言われて社長室のソファーを勧められた。本人も正面に座る。
宮田はお忙しいところありがとうございます、という常套句を述べた。
「2年半前に、興信所の所長の小松さんがあなたのことを調べていたというのはご存知ですか?」
島村はすぐにうなずいた。「はい。私の妻が依頼主でした」と彼は言った。「警察の方に嘘を言っても仕方ないので正直に申し上げますが、当時、私は、なんというか、遊んでいましてね、別な女性と」
「不倫関係にあったそうですね。それで奥様が興信所に依頼された」
「そうです。興信所の小松さんの死体が見つかったそうですね」と島村は言った。
「よくご存じですね」
「妻がニュースを見ていて、教えてくれました」
「奥様とは、今は、その、」
「よりを戻したかと聞かれているんですか?まあ、女性には悪いですが、関係は遊びでしたので、すぐに別れました。妻には十分に謝罪して、今は普通の生活です」と彼は答えた。穏やかな話し方だ。まるで、準備をしたような。
宮田は、手元にある書類を見た。実際には話の段取りは全て頭に入っていて、書類を確認する必要はない。だが、動作をすることで、まるで、今思い出したようなふりができる。
「島村さんご自身は小松さんに会われたことはありますか?」
「いいえ」と島村は答えた。
「一度もですか?」
「私は会っていません。妻は彼に会って依頼していたので、覚えていましたが」
「島村さんが、小松さんに連絡を取られたことは?例えば、ですが、浮気調査は、島村さんにとっては、迷惑でしょう。島村さんが、小松さんに直接連絡されて、そういった調査を進めるのはやめるように依頼されたことは?」
「ありません」と島村は答えた。「私が小松のことに気づいた時には、もう、すべてを妻は知っていましたから」苦笑さえも浮かべていた。
「奥様とは、離婚といった話にはならなかったのでしょうか?」
「ええ。そこまでは。もちろん、彼女は腹を立てていましたがね」と島村は言った。「私は女と手を切り、妻に謝罪をし、以後は、浮気はしていません」
「では、島村さんは、一度も、小松に会ったことはないのですね」と宮田は念押しした。
「はい」と島村も再度うなずいた。
広瀬は、自分でも書類をめくった。「小松さんの行方がわからなくなったのは、9月24日です。この頃島村さんは何をされていましたか?」
「アリバイを確認されているんですか?まさか、私は容疑者なんでしょうか?」
「そこまで大げさではないです。一通りの確認作業です。小松さんの案件の対象者全員に聞いて回っています」
島村は、引き出しを開けた。何冊か紙の手帳をとりだした。「この頃は、この手帳とネット上のカレンダーを併用していたんです」そう言いながらスマホも動かす。「ああ、そうだった。9月のそのころには、海外出張でした」
彼は、紙の手帳から一冊を抜き出し、開いて見せてくれた。
「パスポートは家にありますが、それを確認いただければ、出入国の日時はわかると思いますよ」と彼は言った。「後で、パスポート番号をお知らせします」
宮田と広瀬は、その手帳の内容を控え、パスポート番号のことを依頼して島村の会社をでた。
島村は自分が小松に脅されていたことは一切話さなかった。
その日は、小松に脅迫されていたと思われる他の2人にも会った。
島村と同じでその2人も小松が死んだことを知っていた。そして、自分たちが脅されていたとは言わなかった。
2年半前の行動について正確な情報はなかった。手帳をみたり、家族に聞いたりしていたが、何も確定的なことは出てこなかった。2年半も前のことを覚えているわけがない。
ただし、今日会った3人は全員が全員、わからないなりにも用意していたように整理された話をした。警察が来ることを予想していたようだった。
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