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第28話

広瀬が、夕食を静かに食べていると、東城が水割りを作ってくれて隣に座ってきた。 彼はとっくに自分の分は食べ終わっているので暇なのだ。なにやら横からごちゃごちゃ言っていたが、いちいち相手をしていると長いのでよく聞いていなかった。だが、ふとした言葉が耳についた。 「浮気調査ばっかりしてるから浮気したんじゃないかな」 「は?」何の話だろうか。 「ほら、仕事がら小松は、浮気調査をしてるだろ。毎日毎日、人が浮気しているところを追いかけてるわけだ。そうすると、だんだん、誰でも浮気するもんだ、それは普通のことだって思い始めて、それで、早乙女瑠璃子と浮気をした。で、小松の妻も、夫が浮気しているから、自分の中で浮気に対するハードルが低くなって、それで別な男と付き合いだした」 「ああ」と広瀬はうなずいた。「小松さんの事件の話」 「他に何が?」 「いえ。もう報告書だしたんですね」 「もちろん。即対応がモットーだから」と東城は言った。「それに、大井戸署から進捗情報はもらってる。高田さん、義理堅いから、教えてくれるんだ。容疑者がさらに増えてるらしいじゃないか」 「そうです」 「誰が犯人?」 「まだ、わかりません」 「第一容疑者は?」 「まだです」 「俺は、その、元同僚が怪しいと思うけどな。ちゃっかり経営権を握って得をしているし、お前たちが話聞きに行ったら、別な容疑者を差し出してきた。興信所の仕事してたんなら、事件関係に全くの素人じゃないだろう。人を殺して死体を隠すくらいのことは、できそうだ」 広瀬はうなずいた。確かにそういわれると、浜口が怪しいような気持ちになってくる。捜査の指示だって、その方向で動いていたような気がする。 「浮気調査ばかりしていると浮気したくなるんですか?」と広瀬は聞いてみた。 「俺の仮説」 「では、浮気調査の対象者は、なぜ、浮気を?周りにそういう人が大勢いたわけではないと思いますが」 「浮気してる友人、知人がいるとか。それか、遊び心?」 「軽いですね」 「そんなもんだろ。妻に対しても、不倫相手に対しても、軽いんだよ。でないと、浮気なんてできない」

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