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第30話
呼吸がおさまってきて、しばらくして東城の声がした。
「電気つけても?」
「いいですけど、」どうしてだろう。
ベッドサイドの灯りがパチリとつけられた。東城の大きな手が優しくおりてきて、汗ばんだ前髪をなであげた。
「きれいな目だ。お前、全部、どうしてこんなに整っているんだ?」
額に落とされた唇が熱かった。彼の暖かい体温と同じだ。
広瀬は手を伸ばし、彼の唇に触れた。指を軽く噛まれる。
「あ」
「お前って気持ちいいと、さらにきれいになるな」
当たり前のように好きだとかなんとか耳にささやいてくる。
しばらくして、東城が戸惑った声で言った。「なんで笑ってるんだ?」
「笑ってましたか?」
「ああ。結構、ロマンチックな時間だと思うけど。って、やっぱり笑うんだな」
「東城さんは、いつも俺にきれいだっていうけど、」
「本当のことだろ。お前だって否定はしないし」
「そうじゃなくて、もし、俺が、年をとって、衰えたらどうするんだろうと思って」
「衰えるって?なに?所謂『容色は花のごとく色あせる』っていうことか?」
「自分で言うのもなんですけど」広瀬は身体を少し起こして東城とむきあった。彼の眼尻に手をやる。「いずれは、皺もできるだろうし、それに、そうですね、年をとったら、髪の毛も薄くなるかもしれないし、太って腹も出るかもしれないし」
「お前んちハゲ家系なのか?親戚にハゲがいる?」
「特に心当たりは」
「じゃあ、可能性は低いんじゃないか。まあ、今は、良い増毛の薬があるからそれは対策できそうだ。太るのは、お前の食事の量からしたら宿命だな。このまま食べ続けてたら糖尿病になるかもしれないから、それは、栄養士に相談しよう」
手を伸ばして、腹をなでてくる。
「今のところは、もうちょっと太ってもいいと思うけど」
「そういう話ではなくて」
「わかってる」東城はそう言うと広瀬の胸に額をつけてきた。「わかってる」
腕を背に回されて抱きしめられた。強い力だ。
「ちょっと、うれしい。いや、ちょっとじゃないな。かなり、だ。すげえうれしい」
そんなことを言っている。
「なに?」
「だって、お前、そんな先のこと。それって、ずっと、ずっと先のことだろ」
「まあ、明日急に変化がってことはないでしょうけど」
「だろ。ってことは、そんな先まで、俺とずっと一緒にいるって思ってるってことだろ」
そう言ってさらに抱きしめられた。
冗談とか広瀬をからかっているのではなく、本気で言っているようだった。すごくポジティブな人だと思った。だけど、じんわりきてしまった。バカだなと思いながら自分もポジティブなのかも、と広瀬は思った。
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