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第31話

翌朝、広瀬と宮田は街中の工事現場にいた。埃っぽい中で重機が作業をする音が大きい。警備員に身分証をみせて、現場監督を呼んでもらった。 工事現場の事務所からヘルメットをかぶった男が出てきた。小柄だが体格はいい。 「事務所にあがってください」と言われた。 事務所はプレハブだが暖房がきいていて寒くはない。入り口で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。 「ここの責任者です」と小柄な男は挨拶した。 2年半前に工事をしていた会社に連絡し、当時の現場監督に面談を申し入れたのだ。今は別な現場で監督をしていると聞き、宮田と広瀬が面談に来たのだ。二人が丁重に挨拶すると相手も挨拶を返してくれる。そして、二人は、小松の遺体が見つかった現場の話をした。 「ご遺体が見つかった現場の、2年半前の工事の現場監督をされていたと聞きました」 「遺体のことは、テレビのニュースで見ました。もしかして、あそこかもとは思っていたのですが、会社から連絡があって、本当にあそこだったんだ、と大変に驚きましたよ」と現場監督は言った。「当時の工事に関する書類は会社から取り寄せました。ご協力できることがあればさせていただきますよ」現場監督は、書類をめくって思い出しながら言う。「あの場所は、企業の寮でした。2年半前の8月下旬から2か月くらい、定期的な修繕が入っていたので作業をしていました」 「今は、寮の建物はないようですね」 「会社が寮をやめて土地を売ってマンションになるらしいですな。大規模修繕して2年半しかたっていないのに」 「修繕工事の時に死体には気づかなかったのでしょうか?」 現場監督は首を横に振る。「気づいてたらすぐに通報するでしょう、普通」 「コンクリートを、流し込んだのは何日ですか?」 現場監督は、用意していた書類を手に取る。「コンクリートは何日かに分けて入れています」 そう言いながら日にちを教えてくれた。さらに、記録のコピーを見せてくれる。 「この工事現場でお気づきの点はありませんでしたか?記録には何か残っていませんでしょうか?」と宮田は聞いた。死体に気づかないくらいだから、他になにか気づいたとは思いにくいが。 ところが、「それが、些細なことかどうかもわからないのですが」そう言いながら、現場監督 は言った。「犬の死体があったんです」 「犬の死体、ですか?」 「はい。犬の死体なのですぐに保健所を呼んで処分してもらいました。犬は、血だらけでした。小さい犬でした。気持ち悪かったですよ。私もみたんですが、正直、何かの嫌がらせかと思ったので警察にも連絡しました。ほら、たまにあるでしょう。ヤクザがらみの嫌がらせで、犬の死体が自宅に投げ込まれたっていう」 「暴力団から嫌がらせをうけるような現場だったのでしょうか?」 「警察にも会社にも調べてはもらったのですが、全くそのようなことはなかったです」 「そうですか」 「犬の死体が急に出て、作業を中断されたんですね。コンクリートの流し込みは大丈夫だったんですか?あれは、時間との勝負って聞いたことがあります」と広瀬が聞いた。 現場監督はうなずくが言葉では肯定しなかった。「どの現場でもちょっとした問題はおこります。それをさばいて工事を進めるのが我々現場監督の仕事です」 「この工事に関係する書類はお借りできますか?」と宮田は聞いた。 現場監督は了承した。 現場から遠ざかると、宮田は大井戸署に電話をした。犬の件を高田に報告する。死体が見つかった現場は大井戸署管内だ。犬の死体の件で警察を呼んだとすると、大井戸署が担当しているはずだ。当時の記録が残っているだろう。

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