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第33話

アパートの女性の話の後、ついでだったので、同じアパート内の小松の妻の部屋に向かった。 既に、何人もの捜査員が彼女を訪ね、話を聞いている。何度でも聞きに行けと高田に言われているのだ。妻も容疑者のうちの一人だからだ。小松には、多額の生命保険がかかっている。 家は、小さな分譲マンションだった。 小松の妻は、目の大きなまつ毛の長い美人だった。今日は、化粧っ気がなく、肩ほどに伸ばしている髪も乱れている。やつれている感じがかえって美しさを際立たせていた。 愛人の男は、この家に一緒に住んでいるのだろうか、と広瀬は部屋をそれとなく見回しながら思った。 通された居間は適度に片付いている。 小松の妻は、二人に濃い紅茶をだしてくれた。安いティーパックの紅茶とは違い、香りがよい。 宮田はたびたびの来訪を詫びながら質問をした。 「9月26日に警察に相談されていますね。記録では、9月24日朝小松さんが出かけるのを見た後、連絡がとれなくなっているとされています」 「はい」と小松の妻はうなずいた。 「24日、25日は、連絡が取れないままだったのでしょうか?」 「1日、2日連絡が取れないことは、あるような気がしまして。小松は仕事も不規則でしたし」 「では、26日に届をだされたのはどうしてですか?」 1週間くらい後になって、どうしても連絡がとれずに警察にくるというのならわかる気もしたが、見なくなってわりとすぐに届が出ている。 「心配になったんです。小松は、興信所の仕事をしておりますし、何か事件に、巻き込まれるのではと、胸騒ぎがしまして」と妻は答えた。前にも同じ質問を誰かがしたのだろう。「25日に、小松が行きそうなところや会いそうな人に連絡して、誰からも知らないといわれたので、26日に、警察に相談に行きました」 宮田は、うなずいた。 「小松さんの興信所の経営はうまくいっていなかったと聞きましたが、ご存知でしたか?」と宮田は聞いた。 「はい。小松はそのことで悩んでいました」と妻は言った。「真面目な人でしたから、夜も眠れないようでした」 「給料の不払いもあったということでしたが、どの程度困られていたのか、ご存知でしたでしょうか?」 「もしかして、浜口さんからお話しを聞かれましたか?」と妻は言った。 「はい」 「浜口さん」と妻は言い、一回口を閉じ、そして開けた。「あの、小松ががんばって事業をやっていた時から、浜口さんは、その、不満が多い方で、小松はいつも浜口さんと口論していました。うちにも時々いらしていて、怒鳴りあいになったりして。でも、浜口さんの話は、半分は嘘です。お給料は遅れてはいましたが、払っていました。なのに、浜口さんは、自分の仕事の売り上げを勝手に収入にしていたんです」 「小松さんは浜口さんに横領だと言われていたようですね」 「そうです。大口のお客さんのお仕事になると、外部の人にもお願いして仕事をしなければならないのですが、その経費分まで浜口さんがとってしまって。小松は支払いが滞るから困っていました」 小松の妻は強い口調になっていた。

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