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第37話

「全員、アリバイがあります。小松の携帯のGPS情報からわかったのですが、小松が朝家を出て行方不明になったのは24日です。工事現場でコンクリートを流し込んだのは、25日の午前です。小松を殺害し、遺体を工事現場に運ぶことができるのは、24日10時から25日朝4時までです。でも、脅迫されていた全員が、それぞれアリバイを整理して提出してきました。会社経営者の島村は、21日の早朝に成田空港からアメリカ出張にいっています。他の人間も、仕事や家族の行事などが確認でき、到底、死体を運べたとは思えません」 「小松の妻と愛人は?」 「小松の妻は、オーガニック食品の料理教室の講師をしていて、深夜まで準備をしていたことは多くの人が証言しています。妻の愛人の男は、横浜で同級生と飲んでいて、その日は実家に泊まっています。時間的に、死体を捨てることは難しそうです」 「じゃあ、やっぱり浜口が?」 「今のところ、彼には証明できるアリバイがないのは確かです」 東城は、我が意を得たりという表情をしている。「浜口でほぼ決まりだな。俺が言ったとおりだろ。俺も、大井戸署に行って、捜査に参加したいよ」 「本庁の仕事は?」 「お前とこうして夕飯食えるくらいには時間ある。書類仕事が膨大にあるけどな。だけど、福岡さんは、大井戸署に行って、矢後のことを聞いて来いってうるさいんだ。だから、余計、大井戸署に行きづらい。俺が大井戸署行ったら、矢後の情報取りに来たって、みえみえだろ」 「矢後は何も証言していませんよ」と広瀬は言った。「産業スパイ関係のことについては、矢後からは何の手がかりも得られていません」 「そうなのか?」 「矢後が証言したら、大井戸署から福岡警視にお知らせがいきますよ」 「それが、そうじゃないから困ってるんだ」と東城は言った。「大井戸署の課長と福岡さん仲悪いんだよ。前に何かあったらしい。福岡さんと前に何もなかった人を探す方が難しいくらいだ」 「課長は、個人的な軋轢を仕事に持ち込む方ではないと思います」 「それも、お前の評価?」 「はい」 「ふうん」 「仮に、課長がそうされたとしても、矢後が何かまともな手がかりを証言したら、すぐに、俺が東城さんに教えますよ」 東城が表情を変えた。驚いたようなうれしそうな顔だ。 「なにか?」 「いや、俺に伝えたらまずいんじゃないのか?」 「どうしてですか?」 「だって、大井戸署の情報だろ」 「産業スパイの組織犯罪は国家的課題ですから、変な縄張り争いは不要だと思います」 「お前って恰好いいな。でも、俺に情報回す前に、高田さんに確認してくれ。高田さん抜きでお前が俺に話をしたら、俺がまた怒られそうだ」 「そうですか?」 東城が高田との間でどんな話があったのかはわからないが、相当高田に気を使っているのは確かだった。

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