41 / 62
第41話
その夜、ソファーのひじ掛けに背をあずけ、膝を少し曲げて、ほとんどソファーの上に寝そべるような楽な姿勢をとりながら、広瀬はタブレットを操作した。
小松の白骨死体が見つかって既に何日もたっており、様々なデータが集まってきたので、今まででわかった小松の行動履歴を地図に落としたのだ。
裁判所から令状でやっと入手できた鉄道ICカード情報からわかった乗降記録、携帯電話の通話情報やGPS情報も入れ込んでいたら、思ったより時間がかかった。
帰ってきた後も、東城のマンションで続きをしているのだ。
入手した情報は小松の行動履歴をすべて示すほどには完全ではなかった。
興信所の浜口の話では、小松は、切符で電車にのったり、公衆電話から電話をしたりしていたようだ。
違法賭博に関わっていた群馬への往復や脅迫相手の電話履歴は残っていない。
何かあったときに鉄道ICカードや携帯電話の通話記録は犯罪の証拠になり、自分が追い詰められると思っていたようだ。
だから、記録として残っている小松の行動は、細切れだ。しかし、だからこそ、空白の時間には何かあると推定できる。
広瀬は、さらに、今日聞いてきた犬のロビンの散歩コース、小松の自宅、事務所、脅迫されていたと思われる相手の自宅と仕事先、浜口の家、早乙女瑠璃子の当時住んでいた家などの情報も入れていく。
こうやって全体像をみると、小松の毎日の動きは突発的で、規則性は全くみえない。朝起きて事務所にいくということすらしていなかったようだ。思い付きで行動しているとしか思えない。計画性はゼロだ。
タブレットは記録データの行動パターンから穴のある所を埋めてくれるのだが、このようにパターンがないと、精度の高い推定とはいいがたい。
作業をしながらじっと画面を見ていると、急に後ろから大きな手が伸びてきて頭をなでられた。
びっくりして上を向くと、東城が自分を見下していた。
集中していたので、彼が帰ってきていることにさえ気づかなかった。いや、そもそも、広瀬が帰ってきたときに既に東城はこのうちにいたのかもしれない。職場から今まで、小松の事件のことだけ考えていて他のことがなにも頭に入らなかった。
たまにあることなのだが、仕事のことを考えすぎていると、彼が近くにいても話しかけられても気づかないことがある。
ともだちにシェアしよう!