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第43話

「それ、うちで見てるの、珍しいな」と東城は言った。 サブシステムのタブレット自体、位置情報をかなり正確にとり広瀬の行動履歴を記録していく。 広瀬は研究所に自分が東城のマンションに来ていることを知られたくないので、ここにいるときは極力、電源を切っていたのだ。 だけど、今日は、ずっと考え事をしていて、タブレットに情報をいれたり操作したりしていたから、そのまま使ってしまったのだ。 東城は、タブレットの画面を指で示す。 「この線は?」 緑の蛍光色だ。 「小松の、位置情報です」 「ぐちゃぐちゃで何が何だか全くわからなくなっているな。日付で整理できるのか?」 「色で変えられます」 操作をすると色が七色に変わる。 「混乱が深まっただけだな」と画面を見て東城は感想を述べた。 もう一度見上げるとまた頭をなでられた。 可愛がられている感じだ。どちらかというと幼い子供や愛玩動物を扱うようなしぐさだった。 たまにしてくる。東城のくせのようなものなのだろう。恋人を自分の庇護下において、守ったり愛でたりするのだ。 話しかけられて仕事への集中を遮られたことと、ひがみのせいだが、つい上から目線の手つきだと思ってしまった。 愛玩動物のような扱いされたくはないので、広瀬は頭をふって手を避けた。東城は広瀬の気持ちを察したのだろう、苦笑をして手を外した。 「日にちで画面を切り替えます」と広瀬は言った。「19日です」 地図の線はほとんどなくなる。 「小松が群馬に行った日だな」と東城は言った。 広瀬はうなずいた。 群馬の温泉地で広瀬にからんできた男たちのことを聞きに、地元の『世話役』に会ったら、19日にやってきて、その時、小松は集金してあった金を人の目を盗んで持ち逃げしたのだという。 その後、どんなに探しても姿を見せなかったらしい。 広瀬が訪ねた『世話役』は、昔ながらのヤクザだった。 金を持ち逃げした小松のことを草の根分けても探し出せと子分に銘じていたらしい。だが、殺してまでとは言わなかったと断言していた。金は大事だが、殺す理由としては程度が低いからしない、と言った。 彼の美学では、仁義に劣る極悪人は生きている価値がないから殺すらしい。 その言葉を額面通り信じたわけではないが、仮に自分たちで殺していたら配下のチンピラが小松の行方を探しはしないだろう。

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