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第44話
「金を持ち逃げした次の日に、迷子犬を探す仕事してるのか」と東城は言う。「群馬で盗った金はどうしたんだ?」
「すぐに別な借金の返済に充てたようです」と広瀬は答えた。
『触り上戸』の刑事が情報を得てきたのだ。小松は、都内の半グレから金を借りていた。こちらも違法な賭博でふくらんだ借金だったようだ。
「賭博依存症だったのかもしれません。賭け事は前から好きだったそうです」
「仕事も少なくてしかも借金だらけになったのか」
「半グレの借金が全部返せたわけではないそうです」と広瀬は言った。「小松さんの遺体は、殺される何週間か前に指の骨が折れていました。これは、どうやら半グレにやられたようです。それであせって、群馬で金を盗み、返済の一部にあてたらしいです」
「半グレがイライラして、指を折るだけじゃなくて、殺したってことは?」
「その可能性もあります」広瀬は、20日の小松の行動を示す。「でも、半グレと会った場所から、小松は犬を探しに、散歩コースへ向かっています」
東城は画面を見てうなずく。それから、さらに説明するためタブレットの画面を変えようとすると、身体をかがめ広瀬の視線とほぼ同じ位置になった。
「わかった。かなり整理できてるんだな。でも、もう寝た方がいい。ずいぶん遅い時間だ」
腕時計を示された。気づかないうちに深夜を過ぎてしまっていた。
東城は、そっとタブレットを広瀬の手から持ち上げて電源を切りローテーブルに置いた。
彼から声をかけられなかったら、徹夜していただろう。
こういうことはたまにあるのだ。朝まで仕事をしたり、早朝から起きて署に行ったりすることもあった。だから、慣れているつもりだった。
なのに、東城が広瀬の頬に熱い手を置くと急に眠気が襲ってきた。
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