50 / 62
第51話
「用件があるなら、今、言ってください」と島村が言った。
「小松さんの奥さんが、小松さんを殺したのは、あなただと証言しています」とチームのリーダが言った。
島村はわざとらしく苦笑してみせた。「なんですか、それは?急に何を言い出すんですか?」
「島村さん、あなたは、小松に脅迫されていましたね。会社の金を使い込んだ件でです。それで、小松から金をゆすられていた。かなりの金額を支払っていたはずです」
島村は首を横に振る。「何の証拠があってそんなことを?」
遠くからヘリの羽の音が聞こえてきた。黒い影がこちらのビルに向かってやってくる。島村はその機体をじっとみていた。
「島村さん、証拠についても小松さんの奥さんが証言しています。殺害につかわれた凶器を彼女は隠しています」
「まさか」と島村は言った。
ヘリの音で声が聞こえなくなった。風が強く押し寄せてくる。屋上には、島村の秘書の男も現れる。「社長!」心配そうに彼は島村を大声で呼んだ。
「アポイントはどうされますか?」
ヘリコプターがゆっくりとヘリポートに降りてきた。島村は一歩前に踏み出した。
チームのリーダーが声をかける。「島村さん、このまま行かれてもよい結果にはなりませんよ」
「それは、どうかな?」と島村は言った。「重要な仕事があるんでね。令状をとってきてください」
リーダーは首を横に振った。「時間がかかるので、ここで待っていていただけますか?」
「まさか。何のためにヘリを呼んだと思っているんだね。急いで四国に行きたいからだ」
島村はまた一歩歩き出した。ヘリに乗り込もうとしている。
「なんだったら、ついてくるかね?」と彼はふてぶてしく言った。「逃げようとしているわけじゃないんだ。仕事で急いでいるだけだからね。明日には、また、ここにもどってくる」
秘書の男もヘリに乗ろうとしている。
「止めた方が得策ですよ」とリーダーは秘書に言った。秘書は黙っている。判断できないようだ。
島村は、ヘリに乗り込んだ。
「あ、」
宮田が気が付いた時には、広瀬が動いていた。彼は、ヘリの扉に手をかけたのだ。
「何をするんだ」島村が広瀬を押し出そうとし、大声で怒鳴った。
広瀬は、何か答えているが、騒音がひどく聞き取れなかった。彼は、扉に手をかけ、半身をヘリに入れて島村とやりとりをしていた。
下手すると無理やり島村をひきずりだしそうだった。
「広瀬、ちょっと」と宮田がどうしようか迷っていたが、リーダーは広瀬を止めようとはしていなかった。むしろ、彼もヘリに近づき、広瀬に並んで何かを言った。
ヘリのパイロットは、島村と警察のやりとりが続くため、とまどっているようだった。しばらくした後、ヘリは、エンジンを止めた。島村はヘリを降りようとはしなかったが、パイロットは飛び立つことはしなかった。
その後、任意で大井戸署に来た島村は、すぐに自分の弁護士を呼んだ。弁護士は、強引な取り調べだとして、抗議をしてきた。
だが、小松の妻が隠していた凶器から島村の指紋がみつかった。
ともだちにシェアしよう!