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第54話
「小松の妻の愛人はなんて言っているんだ?」
「彼は、小松の携帯電話をもって動き回ったり、死体を遺棄する手伝いをしたりしています。彼が言うには、今回の件は、小松の妻と島村が協力してやった事件です」
広瀬が口に入れたチンゲン菜は、ほのかにガーリックの風味がして予想以上に美味しかった。見た目からはガーリックのかけらもない。どうやって作っているのだろう。
「協力って?」東城は、魚を食べている。箸で器用に骨から身をはずしていた。
「小松の妻は、島村が小松に脅迫されていることを知って、殺人を持ち掛けたらしいです。殺してくれれば、自分には保険金が入る。島村のアリバイは自分が作るから、大丈夫と言って。だから、島村は、殺した次の日から海外出張を入れていたんです。小松の妻は、死体を冷やしたり、発見を遅らせることで、正確な死亡時刻をわからないように工作しています。さらに、死亡時刻がはっきりしない今となっては、本当に、20日に小松が死んだのかどうかは立証しにくいです」
「小松の妻は、自分で殺そうとは思わなかったのか」
「小松は、妻を警戒していたそうです。愛人の証言によると、ですが」
東城は、顔をしかめた。「そりゃ、多額の保険金、愛人がいる、となったら、警戒もするだろうな」
「おまけに、小松の妻は、国内外の殺人事件のドラマや小説をみまくっていたそうです」
「自分を狙っているかもしれない妻が、殺人ドラマばっかみてたら、怖いよな」と東城は言った。「小松は島村のことは警戒しなかったのか。脅迫してたんなら、気を付けてもよさそうなものだが」
「小松は、都会の半グレと群馬の伝統的ヤクザに金の件で相当追い詰められていました。警戒はしていたでしょうが、それ以上に島村から金をとりたかったのです」と広瀬は説明した。
「島村は、小松のゆすりに我慢できなくなったんだな。警察に届けたとしても、使い込みの事実は変わらないからな。婿養子社長のかなしいところだな」
「小松の妻も、島村も、愛人の言っている話は否定しています。ですが、高田さんは愛人の話の線で事件構成をしたいようです」
「それが真実?」
「大井戸署ではその方向性です」
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