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インフルエンザ 4
数日後から、広瀬は、喉が痛くなり、鼻水がではじめた。
大したことはないだろうと市販の風邪薬を飲んでいたが、とうとう、大井戸署で咳と鼻水がとまらなくなった。マスクをしていたが、コンコンと咳き込み、何度もくしゃみをした。
なんとなく頭が重い。
「どうしたんだ?」と隣の席で同僚の宮田が言った。「広瀬、顔、赤いぞ。熱があるんじゃないのか?」
広瀬は、自分の額に手をやる。「ないよ」
「自分でわかるかよ。インフルエンザなんじゃないか」うつったんだな、と言う宮田の口調は、どことなく嬉しそうだ。「医者行った方がいいぞ。早めに薬飲むと重くならないらしいから」
「インフルエンザじゃない」と広瀬は、どこかでした会話と同じだ、と思いながら答えた。
「熱は微熱だ」
「でも、熱があるって顔だ」
広瀬は、くしゃみをした。咳がとまらなくなる。時計を見ると、帰ってもよい時間だ。今日はもう帰ろう。これでは仕事にならない。
帰り道、歩いていると、頭が痛くてぼうっとしてきた。身体が重く、辛く、短い距離だったが、駅から東城のマンションへはタクシーに乗った。
なんとか、寝室にたどり着き、上着だけ脱いでベッドに横たわった。目を閉じる。寝よう。少しは、ましになるだろう。
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