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 シャワーを浴びて、濡れた髪を拭きながら颯馬はベッドに腰を下ろした。  足元の鞄から携帯電話を取り出し、ころんと身体を横たえる。 「……はぁ」  坂城の家から戻ってから、颯馬の口から零れ落ちるものは溜息ばかりだった。  連絡先を聞き出せなかったわけではない。  それなのに素直に喜べないのは、その時の坂城の態度が原因だ。  困ったような顔をしていた。面倒だな、という心の声も聞こえたような気がする。  そんな沈黙の後に、仕方ないといった口調で「わかった、教えてやるよ」と返ってきたのだ。 「……」  ようやく一歩先へ進む勇気が出せたというのに、坂城は自分を歓迎していない。  それを痛感して憂鬱だった。 「……あぁ、もう……」  寝返りを打って、颯馬は携帯電話を持ち上げる。  歓迎されていなくても、礼くらいは伝えるべきだ。  颯馬は手早くメッセージ打つ。  今日はありがとうございました。  それから……。  久しぶりに先生のピアノも聴けて嬉しかったです。  あとは……。  それじゃ、おやすみなさい。  ……送信。  また会いたいとは伝えられなかった。  もう一度溜め息を吐いて、颯馬は枕元に携帯電話を投げて目を閉じた。  髪を乾かさないと。そう思うのに、起き上がる気力がない。  濡れた毛先から根元まで指で辿って、くしゃりと髪をかき混ぜる。  坂城の手を思い出した。  わしわしと颯馬の頭を撫で回した坂城の手。  ああいうことは簡単にするのに、颯馬がもう一歩踏み込もうとすると拒絶をする。  先生にとって自分はどんな存在なのだろう。  考えてもよくわからなかった。  坂城の手の温度、撫でられた感覚。それらが颯馬の中に甦って――。 「――……」  うっすらと颯馬は瞼を開けた。  髪から手を離し、下肢へと持っていく。  ハーフパンツの前を寛げ、下着の中へと手を差し入れる。  ――あぁもう、最悪だ……。  思考とは裏腹に身体の奥で疼く熱は止まらない。  自身を柔らかく握り、ゆっくり手を上下すると半分芯を持っていたそれはすぐに硬く起き上がった。 「……っ、……」  息が上がる。ベッドに頬を押しつけ、颯馬はきつく瞼を閉じる。  眉根を寄せて、坂城をひたすら思い浮かべた。  先生。  ……先生。 「は、ぁ……」  扱く指が濡れてくる。手指の動きが滑らかになる。  じわりと腰から震えが走り、颯馬は身じろいだ。 「……っ、……ん」  くちゅくちゅという音が手の動きに合わせて聞こえる。  腰が勝手に揺れ動く。下腹から這い上がってくる快感に溺れていく。  追い立てられて、追い詰められて、どんどん思考が白く染まっていく。 「っ、ぁ、……せん、せ……」  声に出した瞬間、高みに昇りつめた。 「――……ッ、……っ、は、ぁ……」  吐き出したものを手で受け止めて、颯馬は荒く息を継ぐ。  深呼吸をして、それからぼんやりと瞼を開けた。  あぁもう、最悪……。  汚れた手で枕元のティッシュを引き出す。  手を拭いて、身体を拭いて、丸めたものを床に投げて、再び溜め息を吐いた。  最悪、ホントに……。  天井を見上げ、颯馬は唇を噛む。  好きだとまともに言うこともできないのに、坂城のことを思い出してこんなことをして。  最悪だろ、俺。 「……髪、乾かさないと……」  気だるい身体を何とか起こして、颯馬は洗面所に向かっていく。  髪を乾かして、歯を磨いて、眠る準備を整えてベッドに戻る。  瞼を閉じる前に携帯電話を見てみたが、坂城からの返信はなかった。  次の日になっても。

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