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確かこの辺りだった筈。
渋滞の駅前通りをのろのろと進みながら、坂城は周囲を見回す。
コンビニ、パチスロ、ファストフード……、眼鏡屋、旅行代理店、居酒屋……。
四年程前に引っ越してきて、この辺りを散策した時に立ち寄った覚えがあるのだが、別の場所と記憶が混ざってしまっているのだろうか。
首を捻りながら酒屋を探す。
夕方六時。どこを見渡しても人ばかりだ。
帰宅するのか、それとも飲みに行くのか、まだ営業の途中なのか、スーツ姿のサラリーマンに、買い物袋を提げた主婦。制服を着た学生たちが歩道を駆けていき、コンビニエンスストアの前でたむろする若者たち。
「……」
自分も学生の頃はあんな感じだっただろうか。
ノスタルジックな気分に浸りながら視線を流していると、ある一点で釘付けになった。
「――……」
横断歩道の前で立ち止まって信号待ちをしているあれは……。
「……砂原」
何故ここに、と考えて気付いた。
そうだ、K駅は颯馬の学校の最寄り駅。時間的にもいてもおかしくはない。
坂城の進行方向の信号が黄色になり、やがて赤になる。
前を行く車に続いてブレーキを踏み、車を止める。
颯馬が待っていた信号が青になった。
坂城の視界の右端にいた颯馬が、人の流れに乗ってゆっくりと歩き出した。
重い足取りが傍から見てもよくわかる。沈んだ表情。きつく噛みしめた唇。
何故そんな顔をしているのか、考えるのはやめた。
予想はできるし、多分それが正解だから。
「……」
その隣。
友人なのだろう、颯馬よりも頭半分程背の高い男がぽんと颯馬の頭を撫でた。
歩きながら、颯馬が俯けていた顔を上げる。
隣の男を見上げ、ほんの少し頬を綻ばせた。
坂城から颯馬の表情は見えない。だけどきっと、笑ったのだろう。
その笑顔がどんなものだったか自分の記憶から探し当てて、坂城は深く息を吐いた。
視線を颯馬から逸らす。
とん、とん、とハンドルを指先で叩いた。
――ああ、何か……。
何だろうな、この気分は。こういうのは慣れている筈なのに。
坂城のような教師は、生徒から好意を寄せられることが多々ある。女子からも、時には男子からも。
正直に言えば、そんな好意には慣れてしまっている。ああまたか、と適当にあしらってしまう程に。
ついでに言えば、ついこの前まで自分を好いていた筈の生徒が、同じクラスの生徒と付き合い始めたというような話も耳にしているので、そうやって勝手に忘れられていくことにも慣れていた。
慣れていた、と表現すること自体がおかしいか。
それが普通で、そうあるべきことだ。
颯馬にも、そうなってほしいと思うのに。
思っているのに。
「……」
とん、とん、と坂城はハンドルを指で叩き続ける。
何だろうな、この気分。本当に。
――ああ、何か……。
苛々する。
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