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6-3
「勇大、ちょっと相談していい?」
いつものように学校帰りに立ち寄ったファストフード店で、颯馬は真剣な顔で口を開く。
「ん? いいけど、どーした?」
向かいの席でシェイクを飲んでいる勇大が首を傾げる。
勇大はハンバーガーとシェイク、颯馬はオレンジジュースとポテトを頼んだ。
学校で昼食はしっかり摂っているのだが、座っているだけの授業でも夕方には小腹が空く。
「俺さ、大人になりたいんだけどどうすればいいと思う?」
ずい、と前のめりになった颯馬に、勇大が目を丸くした。
賑やかな音楽と混雑した店内では普段よりも声を張らないと相手には届かない。
きちんと声を張ったのに、もう一回言って、と勇大に身振りで伝えられ、颯馬は再び声を張った。
「だから、大人になりたいんだってば」
「大人ぁ?」
今度は反対側に首を傾げた勇大が視線を上向ける。
「うーん、来年になったらなるんじゃない? 成人式あるし、法律的に大人」
「そういう意味じゃなくて、何て言うの? 雰囲気とか、内面とか、あと経験値」
「経験値って……、ゲームの話?」
「俺の話」
何それ、と勇大が頬杖をついた。
うだうだと坂城を想い続けている颯馬の時間は終わった。この前の夜、川沿いの道での坂城との話を総合的に考えたら、颯馬の気持ちは坂城に届き、坂城もそれに応えてくれるということになったはずだ。
好きだという言葉はもらえなかったけれど、あの後家まで車で送ってもらった時にもう一度キスをされたし、本気にさせたのだから責任を取れとも言われた。家に帰って眠る前におやすみなさいとメッセージを送ったら、以前とは違ってすぐに返事があった。
これは今までとは違う関係になったということで間違いないだろう。
「あ」
それで思い出した。颯馬は慌てて携帯電話を取り出して文字を打ち始める。
「何してんの?」
勇大に聞かれ、手を動かしながら答える。
「学校終わったって送ってんの」
「誰に? まさか親とか?」
「違うよ」
笑いながら答え、テーブルに携帯電話を置く。颯馬の表情を見て勇大が片眉を持ち上げた。
「あーそういうことか」
「ん?」
「付き合ってるヤツ、できたんだ」
「……」
慌てて目を逸らした颯馬に、勇大がにやにやする。
「何だよ、それで大人な雰囲気とか、内面とか、経験値が欲しいとか言い出したわけか」
「……そ、そういうわけじゃ、なくも、ないけど……」
「で、学校終わったって送って、これから会うの?」
「今日はバイト」
「じゃあ何でそんな連絡すんの」
「え、だって、教えてって言われてるから」
颯馬が答えた時、携帯電話が震えた。持ち上げて画面を見ると、坂城からの返事が届いている。
『お疲れ。今日これからの予定は?』
手早く返事をする。
『バイト』
またすぐに返ってくる。
『何時から?』
『六時』
『今何してんの?』
『友だちと話してる』
そこで間が空いた。再びテーブルへ携帯電話を置き、颯馬は会話に戻る。
勇大へ視線を向けると、さらににやにや笑っていた。
「結構束縛激しいタイプ?」
「へ? 何が?」
「相手。学校終わったら連絡しろとか、そーいうことじゃん」
「そうなの?」
「まあ付き合い始めとか、そういうもんだよなぁ。俺はそのうちめんどくさくなるけど」
面倒って、と颯馬は口の中で呟く。そういうものなのだろうか。颯馬は今まで誰とも付き合ったことがないので実感がない。
「勇大は連絡するのが面倒だと思うタイプ?」
「連絡がじゃなくて、束縛されるのが面倒なの。されるのも嫌だし、するのも嫌」
「束縛かぁ。正直俺、よくわかんない」
当然、したこともなければされたこともない。嫌だという話はよく聞くが、実際自分がどう思うのかはおそらくこれから知ることになるのかもしれない。
再び携帯電話が震えた。坂城からのメッセージだ。
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