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「――……ん、……ぅ」  吐息を零した颯馬が、足の力が抜けてしまったのかふらりと倒れそうになる。腕を回して背中を支え、坂城はキスを続ける。  縋るように坂城のシャツを掴んでいた颯馬が、抱きつくように腕を首に回してきた。 「……先生」  キスの合間に颯馬が囁いてくる。 「どうした?」  キスをしながら答える。 「……もう一個、先生としたいことあった」 「何?」 「……あの、俺ね……」  最後にちゅ、と音を立ててキスをして、坂城は颯馬から唇を離した。今にも蕩けてしまいそうな目で颯馬が笑う。 「……先生とデートしたい」 「それは今度の日曜な」 「いいの?」  小さく飛び跳ねた颯馬に思わず吹き出してしまった。笑いながら颯馬の髪を撫で回す。 「どうしても外せない用事がない限り、そう簡単には断らねぇよ。だからもう慣れろ」 「慣れるって何に?」 「俺に甘やかされることに」  颯馬の腕を引いて、坂城はリビングへ移動する。ソファに座り、隣に颯馬を座らせて肩を抱き寄せる。回した腕で再び髪を撫で回すと、颯馬が肩に頭を預けてきた。  反対の手でポケットから煙草を取り出す。一本口に咥え、火を点ける前に問う。 「……煙草吸っていい?」 「いいよ」  頷いた颯馬から顔を背けて火を点ける。ふ、と煙を吐き出すと、ぽつりと颯馬が話し始めた。 「……先生の手、綺麗だなって思ったんだ」 「そうか?」 「高校生の時に、初めて先生がピアノ弾いてるとこ見て、思った」 「あー、覚えてる。おまえすげぇ勢いで走ってきたもんな」  だって、と言った颯馬が顔を上げる。 「授業とか合唱の伴奏とか以外で、人がピアノ弾いてるとこ初めて見た。クラシックのすごく難しそうな曲とか」 「そうなの? 今まで周りにいなかった?」 「いないよ。先生が初めてだし、多分先生に会わなかったら、俺、ピアノ弾いてるとこを見たいとも思わなかった」  テーブルの上の灰皿を引き寄せて煙草を打ちつけて灰を落とすと、颯馬が独り言のように呟いた。 「先生のこの綺麗な手が俺を触ってくれたらいいなって、ずっと思ってた。だから今、すごい嬉しい」 「……」 「この前から、先生俺にたくさん触ってくれる」 「……おまえさ」  坂城は深く息を吐いた。  颯馬が自分から離れられないようにするためにも怖がらせるようなことはしたくないのに、そんな坂城の心を揺さぶるようなことを簡単に言ってくる。  自分を抑えつけるのをこれ程大変だと思ったことはない。 「……ちょっと黙って」 「え?」  颯馬の口を塞ぐように、坂城はまたキスをした。

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