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 頬を包む颯馬の手のひらにキスをした坂城が、胸に手を這わせてくる。胸を撫で、脇腹を撫で、背中の方にまで指を這わされ、いつの間にかTシャツが捲り上がっている。露になった胸元に坂城の唇が降ってきた。  ちゅ、と音を立てて肌が吸われる。颯馬は坂城の頬から髪へと手を滑らせ、くしゃりと撫でてみる。お返しというように脇腹をくすぐられた。身を捩って笑った瞬間、片方の乳首が濡れた感触に包まれた。 「……っ」  胸の先を柔らかな舌で転がされる。女の人がこうされて感じるのは知っているけれど、男の場合はどうなのだろう。意識して自分で触ってみたこともないのでわからない。感覚がまったくないわけではないからくすぐったいような感じはするけれど、自分で性器を弄る時のような快感はない。  それでもこんなふうに、こんな場所へ坂城の唇と舌が触れている。それを実際に目の当たりにするとどうしようもない程に煽情的で、身体の中心に一気に血液が集中した。下着の中で自身が膨らみ始めたのがわかる。  だめだ、と最初に考えた。こんなふうに反応するなんていけない。恥ずかしい。知られたくない。けれど今しているのは性交渉なわけで、性的な反応があって初めて成り立つものなのだから、こうなって当然だとも考えた。だけどどうしても恥ずかしくてわけがわからなくなる。 「せ、せんせ、……あの、それは」 「……んー、やっぱ初めてだとそんなに感じないね」 「感じる、とかよくわかんないけど、ちょっと、待って」  颯馬の言葉を無視して、坂城がもう片方の乳首を指で押し潰すようにした。口と指とで愛撫され、微かな痺れのような感覚が腰の奥へ走る。 「……先生、……っ」  何が何だかよくわからないのに腰にもどかしさが溜まっていく。坂城に乳首をきつく吸い上げられた瞬間。 「……あっ」  変な、声が出た。 「――……っ、ちょ、先生、本当に待って、あの、だからぁ!」 「……砂原、何焦ってんの」  じたばたと暴れ始めた颯馬を、坂城が呆れた表情で見つめてくる。下半身も大変なことになっているが、頬も今までにない位に赤く大変なことになっているはずだ。颯馬は足をばたつかせる。 「焦るっていうか、何か、だめだよこれ」 「だめって何が」 「だって、何か、その」  顔を上げた坂城がふと視線を颯馬の腹へと向けた。その先でハーフパンツを押し上げているものを見つけ、手を伸ばしていく。 「ああ、ちゃんと反応してるな」 「ちょ、あ、だからだめだって!」  ハーフパンツと共に下着を下ろされそうになって、颯馬は慌ててウエストを掴んだ。 「さっきも言っただろ。おまえはただ気持ちよくなっていればいいって」 「そうだけど……、でも……」  髪を撫でられ、衣服を引き上げる手を優しく解かれる。胸にも腹にもキスをしていく坂城が下肢を暴き、颯馬の両足から抜き取った。それから捲り上げられたままだったTシャツも脱がされ、颯馬だけが裸にされた。 「先生、あの」 「ん?」 「は、恥ずかしいんだけど……」 「……」  颯馬の言葉にしばし考えるような間を置いて、坂城が傍へ身体を寄せてきた。 「じゃあ脱がせて」 「へ?」 「おまえが、俺の服脱がせてよ」  手を取られて坂城のシャツを掴まされる。身体を起こして、床に膝をついて座っている坂城のシャツを引き上げていく。  露になっていく坂城の身体に目を奪われる。頭を引き抜いた坂城が乱れた髪を直すように首を振ると、ふわりと煙草の匂いがする。  両腕も引き抜いて颯馬の手からシャツを受け取り、坂城がそのまま床へと投げた。  どうしよう、どうしよう、颯馬はそればかりを考えていた。初めて目にした坂城の肉体にもそうだが、服を脱がすことを許されたという特別な行為に自分がどうしようもない程に昂っているのを感じている。ジーンズを穿いたままの坂城がソファに座り、颯馬に顔を寄せてきた。 「砂原」 「……何?」 「キスして」 「……う、うん」  恐る恐る顔を上げて唇を触れ合わせる。坂城が颯馬の腕を取り、自分の首へ回す。坂城の唇を甘く食みながら、颯馬は促されるまま抱きついた。  太腿を撫で上げられる感覚がする。ゆっくりと坂城の手が上へと這い上がってくる。くすぐったさと、性器に触れられるのではないかという惑いから、颯馬は思わず腰を捩る。  不意に、坂城が口の中へ舌を差し入れてきた。 「……ん」  意識がキスへ向いた瞬間、坂城の手が颯馬の屹立したものに触れる。反射的にびくりと身体が震えた。  プールの授業の時や、修学旅行などの風呂場で友人たちに見られたことはあっても、こんなふうに興奮した状態のものを見られたことなど一度もない。それどころか自分以外の誰にも触れられたことなどないのだ。  坂城の、あの綺麗な指が、颯馬のものをゆっくりと扱いている。そう考えただけでぞくりとした。 「ん、ぁ、だめだよ、せんせ……」  唇を離し、颯馬は首を振る。けれど坂城の手指がくれる刺激が腰の奥を甘く疼かせ、言葉尻が吐息に変わってしまう。  颯馬の頬にキスをした坂城が手の動きを早くする。ふたりの息遣いしかしない部屋に次第に水音が響き出して、どうしようもなく顔が熱くなった。  制止する言葉は出てこなかった。坂城に何かを言おうとしても、溢れ出てくるものは小さな悲鳴のような声ばかりになってしまって、それが恥ずかしくて颯馬は唇を噛みしめる。 「……っ、ん、……ん、ん」 「声、抑えるなよ」  坂城の声に颯馬はぶんぶんと首を振った。我慢しなければとんでもない声を上げてしまいそうだった。  自分でするのと人にしてもらうのとでこんなにも感覚が違うとは知らなかった。いつもよりもずっといやらしい音がして、いつもよりもずっと気持ちよくて、身じろぐたびにキスをされて、耳元で囁かれて、いつもよりもずっと身体がおかしい。  大した時間も経ってないのに達してしまいそうになる。さすがに早いと自分でも思うのでどうにか我慢したかった。けれど坂城は手を止めてくれないし、それどころか再び颯馬の胸に顔を埋めて乳首へ舌を這わせてくる。  ちゅ、と吸い上げられると、これまで感じなかった甘い感覚が腰の奥に広がっていった。 「……ぁ、あ、……や、ぁ」  だめだと思うのに声が抑えられない。坂城の愛撫から逃げようとして身体を引くと、再びソファに押し倒された。  覆い被さってくる坂城に、颯馬は縋りつくことしかできなかった。 「せ、んせ……」 「……どうした?」 「……く」 「ん?」 「……い、く、……いくから、も、やだ、ぁ」  さらに強く扱かれて頭の中が真っ白になる。きつく坂城に抱きついた颯馬の視界が涙で滲む。 「あ、……ぁ、だめ、……あ、あっ」  誘われるまませり上がってくる絶頂感に、颯馬はびくりと身体を震わせた。

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