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 10  がくがくと膝が震え、腹の底から痙攣する。坂城の手を汚してしまったと頭の片隅に浮かぶが、それはすぐに霧散していく。  今までにない程に昂ったものが放出されると、今度はとてつもない気怠さが襲ってくる。ぐったりと力なくソファに身体を預けて、颯馬はまだ震えている息を吐き出した。  肌が触れ合うだけでぴくりと身体が揺れる。達する前よりも後の方が敏感になり、坂城の吐息が肌を掠めるだけでくすぐったくて堪らなくなる。 「……先生、ごめん……」  呼吸が落ち着いてから言葉にしたが、ほとんど吐息だった。 「ん? 何が?」 「……手、汚した」 「いいよ、別に」 「……ティッシュが、……そっちにあるから」 「後でいいって」  ふっと笑った坂城が颯馬の顔を覗き込み、唇を重ねてくる。条件反射のように坂城の唇を食む自分を颯馬はどこか不思議な気持ちで眺めていた。  初めて坂城にキスをされた時の動揺した自分が別人みたいだ。何度もキスを重ねてきて、多少の恥ずかしさは残っているものの今は心地良さの方が大きくなっている。  抱きしめること、抱きしめられること、キスをすること、キスをされること。こんなふうに柔らかな気持ちで慣れていくのが誰かと深く関わり合うことなのだろう。颯馬にとってはすべてが初めてなので、綺麗事なのかもしれないけれど。  そういえば、とようやく思考が動き出した。唇を離し、颯馬は力の入らない腕をどうにか持ち上げる。 「……先生も」  触れられて達したのは颯馬だけだ。最後まではしないと言われたが、颯馬だけが気持ちよくなって終わってしまうのは絶対に違う。  ベルトを外し、ジーンズの前を寛げる。中に手を差し入れようとすると、坂城が耳元で小さく笑った。 「してくれんの? 砂原」 「……だって」  坂城の顔を直視することはできないが、それでも颯馬は頷く。 「……俺も触りたいって、さっき言った」  颯馬に覆い被さっていた坂城が上体を起こし、下肢を覆う衣服をすべて脱ぎ捨てて再びソファへ腰を下ろした。颯馬も起き上がり、坂城へ向き直る。  何も言わない坂城の腹へ、そっと手を伸ばす。最初に下腹部に触れ、その手を下へと滑らせていく。  余裕がなかったのは自分だけで、坂城はまだまだ余裕がある。それを如実に物語っているそれは、まだ半分程しか起き上がっていなかった。颯馬の指が触れても、坂城が返してくるのは笑みとキスだけだ。  何度も何度も坂城とこういうことをすれば、いつか自分も余裕を持ってこういう行為ができるようになるのだろうか。キスに慣れてきただけの颯馬にはまだそこまでの想像はできない。  恐る恐る触れた坂城の性器は颯馬が思っていた以上に熱くて、落ち着き始めていた鼓動が再び強く高鳴った。  包み込むようにしてゆっくりと手を動かす。颯馬の拙い動きでもそれは徐々に反応し、硬さを増してくる。自分の愛撫で坂城が少なからずとも昂っていることがわかると嬉しくて、颯馬は思わず坂城の顔を見上げた。 「……何だよ、何見てんの」 「き、気持ちよく、なってきた……?」 「ばぁか」  喉の奥で笑った坂城が颯馬の頭を引き寄せてキスをしてくる。すぐさま入り込んでくる舌に口の中を蹂躙されて手が止まりそうになるが、何とか続ける。  颯馬の指がある場所を擦った瞬間、坂城が小さく息を詰めた。その意味を考えて瞬時に頬が熱くなる。唇を離して思わず狼狽えそうになった颯馬の腰を引き寄せ、坂城が再び性器に触れてきた。  触れられて初めて、自分のものが屹立していたことに気付く。 「……っ」 「若いってすげぇな。俺も十代の頃はこんなだったか? 全然覚えてないけど」  独り言のように呟いた坂城が、自身のものと颯馬のものを重ね合わせて颯馬の手と一緒に扱き始める。  坂城と颯馬の手の中でふたりのものが擦れ合って熱い。手の動きに合わせてくちゅくちゅと水音がするのは、坂城の手が颯馬の精液をまとっていたせいだ。手も性器もぬるぬると滑り、快感が呼び起されていく。腰を引いて逃げたかったが、もう一方の手で腰を坂城に引き寄せられたままでいるので叶わなかった。 「……あ、せんせ、……何して、……っ」 「勃ってるから。もう一回イけそう?」 「……わ、かんな、い」 「じゃあ試してみようか」  初めて見るような不敵な笑みを浮かべ、坂城が手の動きを速めていく。いつの間にか坂城への愛撫の手は止まり、両腕で抱きついていた。  二度目の絶頂へは緩やかに上っていく。坂城とほぼ同時に達し、颯馬は身体の力をすべて失いソファに沈み込んだ。

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