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 11 「週が明けたら試験かー。ヤだなー」  階段を一段一段大きな足音を立てながら降りる勇大が両腕を上へ伸ばして首を捻る。授業中に凝り固まったのか、首の骨がぽきりと鳴り、勇大があいたっ、と悲鳴を上げた。 「でも試験終わったら夏休みだよ。高校の時より休み長いから、ちょっと楽しみなんだけど」 「その前が地獄だろ……。ああ考えただけで滅入ってくるー……」 「試験なんか始まっちゃえばすぐに終わるよ」 「颯馬は試験の後の予定が充実してるからそう思えるだけだって。俺なんか夏休みの予定ほぼバイトしかないんだぜ?」  友だちはみんな彼女持ち出しさぁ、と勇大が口を尖らせる。 「俺もあの時断らなきゃ良かった」  最後にぽつりと付け加えられた言葉に、颯馬は目を丸くした。思わずそのまま勇大へ視線を向ける。 「え、勇大誰かに告白されたの?」 「あーうん、六月の頭くらい、かな」 「誰? 同じクラスの人? 同じ学科? 同じ学校?」 「違うよ、バイト先の子」 「断ったんだ。何で?」 「いや、だって……」  颯馬へ視線を向けた勇大がふとばつの悪そうな表情を浮かべて顔を背ける。 「……何て言うか、……まあ、気になってるヤツがいたっつーか、……そんな感じで」 「気になるヤツがいた……、って、過去形?」 「んー、まあ、多少は現在進行形でもある、かもしれないけど……」  珍しく勇大の歯切れが悪い。そういえば勇大の恋愛の話を聞いたことはなかった。颯馬からは何度か相談などを含めて話したことはあるのだが、勇大の話を聞いた覚えはない。自分たちは男同士なので、女子のように恋愛の話に花を咲かせるようなことはないが、それでも彼女の有無や恋愛における価値観などそれなりに話題に上ってくるものだ。  今までの付き合いの中で颯馬の方しか話していないということは、勇大が意図的に避けてきたからだろう。颯馬が恋愛における経験値が少ないのは明らかなので、勇大にとって今までの颯太は相談できる相手としては不足だったのだ。それが坂城という恋人を得た今、きっと勇大の中で颯馬は恋愛の話もそれなりにできる相手として格上げしてもらえた。きっとそういうことだ。 「その人に告白しないの?」  颯馬が問うと、勇大が勢いよく振り返った。 「無理!」 「……何で?」 「んなの無理に決まってるだろ」 「だから何で」 「……そいつ、俺のこと好きじゃないってわかってるから」 「……」  それは……。  ……とても切ない。  高校生の頃からずっと片想いをしてきた颯馬にとって、その感情はよくわかるものだ。あの頃の坂城が颯馬のことをどう思っていたのかはわからないけれど、ずっと拒否され続けてきたことは確かなのだ。  自分を想っていない相手を追いかけ続けるのは、辛い。  勇大に声をかけようとしたその時、この話題は断ち切られた。 「つーか俺の話はいいの! 今は試験! 颯馬今日バイトは?」  一階まで階段を下りきり、勇大が出口へ向かって足を進める。それを追いかけながら颯馬は鞄を漁って携帯電話を取り出した。 「試験前だから休みもらってる」 「じゃあどっかで試験勉強しねぇ?」 「ああ、うん。じゃあちょっと聞いてみる」 「はぁ?」  颯馬の言葉に勇大が眉を顰めて振り返った。

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